シティ・モビリティ

Waymo初の海外進出は日本、2025年初頭、東京で地図作成に着手
~ロボタクシーで日本交通&GOと提携した狙いは?~

上級研究員 新添 麻衣

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2024年12月16日(現地時間)、Waymo(ウェイモ)が2025年の日本上陸を発表した※1。Waymoにとっては、これが初の海外進出となる。
 車両は、米国でのロボットタクシーサービスに既に使用されているジャガー「I-PACE」を日本にも持ち込む。タクシー大手の日本交通と配車アプリを運営するGOの2社と組み、日本交通が車両の運行管理とサービス提供(management and servicing)の監督を担う見込みである。

東京で乗客が乗れるようになるまでには、まだ時間を要する。Waymoは、日本交通の職員に対して自動運転車両の取扱いに関するトレーニングを行い、まずは両社で自動運転タクシーが走行するために必要な地図データの作成に着手する。日本交通の乗務員がI-PACEを手動運転し、データを収集する。
 Waymoは対象エリアとして、港区、新宿区、渋谷区、千代田区、中央区、品川区、江東区の名前を挙げており、このエリアの中から自動運転タクシーが始まる可能性が高い。

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 Waymoは米国においても、新たな都市に運行エリアを拡大する際、まずは従業員のみで走行し、次いで地元市民に体験走行会を開催したり、招待コードを配付して地場のユーザーと車両の需給バランスやトラブルの発生状況を見極めながら、最後に一般開放する慎重なプロセスを踏んで展開している。
 しかしながら、この展開のプロセス自体もこなれたものになってきたと見え、米国では今後オースティン、アトランタ、マイアミなど新たな運行エリアの拡大を告知している。2025年の走りだしを経て、Waymoが東京を見込みある新たな市場と認めた場合には、2~3年のうちには一般市民も乗車可能になるのではないのだろうか。

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以下、Waymo日本進出への期待を込めて、今後注目したい点を述べる。

<1.複雑な都市部で鍛えられた自動運転タクシーは、地方部の社会課題解決にも光>
 日本の道路とは左右が逆ではあるが、Waymoは、米国本国では、サンフランシスコ、ロサンゼルス、フェニックスのダウンタウンを含む市内および周辺都市の全域で24時間対応の運行実績を持つ。Amazon傘下のZooxやトヨタやNTT等が出資するMay Mobilityも後を追うが、GM・ホンダのCruiseが事業閉鎖(レポートこちら)を発表した今、レベル4の自動運転タクシーのサービスを一般市民に広く提供した経験値のある事業者としては独り勝ちの状況にある。

都市部は過密であり、自動車の交通量の多さ、建造物の多さによる見通しの悪さ、歩行者や自転車との交錯など、自動運転車にとっては難易度の高い走行環境である。米国内でも、大都市のサンフランシスコ・ロサンゼルスと砂漠の中を切り開かれた広く平坦な道路が続くフェニックスでは、後者の方が難易度が低いことはWaymoも認める点である。
 これまで日本では、少子高齢化や運転士不足の問題などから、地方部の公共交通を維持すること主眼に自動運転の実証実験が進められてきた。地方部の走行環境に合わせて調整されたシステムは、都心部では歯が立たないが、難易度の高い都心部で鍛えられたWaymoの自動運転システムは、交通量や複雑さの減る地方部でも適応できるだろう。

自動運転タクシーの場合、Waymoでは1都市につき数百台を投入している。スケールメリットによるコスト低減効果と都市部で磨かれた技術力により、公共交通網が衰退しつつある地方部でも手の届きやすいソリューションが生まれる可能性がある。
 また、オンデマンド性により、路線バスやコミュニティバスよりも運賃単価が高いタクシーは、高額な自動運転車を用いたサービスの中でも、採算性・持続可能性が期待できるビジネスモデルである。

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<2.タクシーの運賃規制改革の議論、高まるか?>
 目下、タクシーを巡る規制改革の議論は、「二種免許を持ったプロのドライバーが運転するタクシー」VS「研修等を受けた一般ドライバーが運転するライドシェア」のあいだで起きている。自動運転タクシーの実現が見えてきた場合には、この議論にさらに、「ドライバーのいない自動運転タクシー」が加わる。
 人が運転するタクシーも、ライドシェアも、「自動車によるオンデマンドの有償旅客サービス」と捉えれば、自動化されるとどちらも「自動運転タクシー」に収斂される。

日本におけるタクシーの運賃は、タクシー事業の経営に必要な人件費、燃料費等に適正な利潤を加えた総括原価を求め、総収入がこれと等しくなるように運賃水準を決定する「総括原価方式」が用いられている。この総括原価方式は、安定的な運賃提示を実現している一方で、真の意味でのダイナミックプライシングの導入を阻んでいる規制でもある。
 日本版ライドシェアの解禁を契機に、国交省は「タクシー及び日本版ライドシェアにおける運賃・料金の多様化に関する検討会」を設置し、新たなダイナミックプライシングなど運賃料金の多様化を目玉として規制改革の検討を重ねている。

ドライバーの人件費が不要となる自動運転タクシーの存在は、タクシー規制に新たな一石を投じる存在となり得ると共に、そのような将来の議論の主導権を手放さない意味でも、日本交通はWaymoと組んでおきたかったという側面もあるのではないだろうか。先端技術による「ドライバー不足の解消」という社会問題への取組みの裏に、今回の提携には、このような意図も潜んでいる可能性がある。

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<3.新たなリソース・人材確保も課題/意外と人手のかかる自動運転サービス>
 プロのドライバーは不要となるが、自動運転タクシーの運行には、様々な人手が欠かせない。

例えば、日本でも米国でも、遠隔地の監視センターから自動運転タクシーの運行状況をリアルタイムで見守り、緊急時の対処を行うことのできる係員(日本では特定自動運行主任者)を置く必要がある。また、質の高いタクシーサービスの提供のためには、車内の清掃やEV車両の充電をはじめとした車両のメンテナンスも繰り返し必要となる。

Googleの親会社であるAlphabetが莫大な資金を投じて開発を進めるWaymoだが、自動運転システムの開発に強みがある一方で、自動運転のタクシーの運行管理や整備するためのアセットは基本的には持ち合わせていない。日本進出にあたっては、タクシー事業者として日本の大都市の顧客基盤を持ち、運行管理のノウハウも持つ日本交通というパートナーをWaymo側も求めていたと考えられる。

最初の顧客接点となる配車アプリについても同様だ。Waymoは米国では、自社アプリでサービスを開始したが、このアプリをインストールするユーザーは、自動運転や自動運転タクシーに関心を持ったアーリーアダプターが大半であろう。より多くの潜在ユーザーを掘り起こすべく、今後展開を予定するオースティン・アトランタでは、既に広く市民に普及しているUberアプリ経由での配車を導入する。東京では、同様の理由で、GOが配車アプリに選ばれたと見るべきだろう。

本国米国でも、Waymoのサービスは多くの委託事業者によって支えられている。日本の事業者にとっても、新たなビジネスチャンスになる可能性がある。 自動運転タクシーの黒船襲来とも言える本日のリリースだが、今後の日本での展開を期待を持って注視していきたい。

<Waymoがユーザーに直接提供 @米国>
 ■タクシーサービス
 ■配車アプリ

<パートナー企業が提供するサービス@米国>
 ■ベース車両 :ジャガー、Zeekr 、現代(予定)
 ■車両改造:MAGNA※3
 ■車両メンテナンス(充電・清掃など):Moove※4,Uber(予定)※2
 ■運行管理・遠隔監視:Transdev※5
 ■配車アプリ:Uber (予定)※2

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※1 Waymo “Partnering with Nihon Kotsu and GO on our first international road trip”, December 16, 2024
※2 Waymo “Waymo and Uber expand partnership to bring autonomous ride-hailing to Austin and Atlanta”, Sep. 13, 2024
※3 Phenix Business Journal “Magna’s massive Mesa factory to assemble Waymo vehicles”, August 27, 2024
※4 Moove “Moove Partners with Waymo to Redefine the Future of Urban Mobility”, December 5, 2024
※5 Transdevウェブサイト

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