GM、自動運転タクシー部門Cruiseを閉鎖
~自家用車向けのレベル2+、レベル3の開発に注力へ~
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1.CASE対応で多方面の開発コスト嵩む自動車OEM、ロボタクシーからのリターン待てず
2024年12月10日(現地時間)、GM(ゼネラルモータース)は、傘下の自動運転タクシー部門Cruiseへの資金投入を停止し、自動運転戦略の見直しと事業再編を行うことを発表した※1。この決断により、年間10億ドル(約1,500億円)以上の支出の削減を見込む。
今後は、既存の自家用車に搭載を進める運転支援システム(ADAS)「Super Cruise」の開発に注力する。「Super Cruise」は、あくまでも人間のドライバーの責任によって車両が運転されていることを前提に、安全運転を支援する「自動運転レベル2」のシステムだが、作動条件を満たす場面では手放しでシステムに運転を任せることができる。
10日に緊急開催されたアナリスト向けのBusiness Update Callでは、GM経営陣はレベル2の先のレベル3の開発にも言及している※2。いずれにしても、最大市場であるマイカー領域への投資を優先する。
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2.Cruiseの自動運転タクシー事業のこれまで
2016年にGMが買収したCruiseは、2018年にホンダと資本・業務提携し、自動運転サービス・車両を共同開発してきた。競合であるGoogle系のWaymoとは、カリフォルニア州サンフランシスコやアリゾナ州フェニックスを中心に自動運転タクシーの展開を競ってきた。
しかし、2023年10月末、サンフランシスコで歩行者を引きずる人身事故を発生させた。事故を起こしたことそれ自体よりも、事故報告に一部隠蔽と取られかねない記載があったことなどからCruiseの事故後の対応への不信感が高まり、カリフォルニア州からは運行免許をはく奪され、罰金も課されている※3。この事態を受け、Cruiseでは全米で自主的に運行停止を決断し、この間、Waymoからは大きく引き離された。
経営陣を総入れ替えし、2024年6月からは、アリゾナ州フェニックス、テキサス州ダラス、ヒューストンで運転席に保安要員のドライバーを置いた状態での公道走行試験を再開していた※4。その後は、Uberとの提携を発表。2025年初頭には、米国の一部の都市でUberのアプリからCruiseの自動運転タクシーを配車できるようになるとのリリースも行われるなど※5、再度、ロボットタクシー事業の拡大に向けて進み始めたかと思われた矢先の事業再編の決断であった。
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3.“CASE”への対応で開発コストが嵩む自動車OEM
現在の世界的な自動運転ブームは、2004~2005年頃に始まった。当時は2020年代半ばを普及期と見込んだ将来予測が多く、それを前提に多くの投資が集まった。
しかしながら、近年の開発状況を踏まえると、自動運転車の普及は10年以上ずれ込んでおり、早くても2030年代半ばとなっている。自動運転タクシーの実現には、LiDARなど多数のセンサーを搭載した高額の車両開発に加え、システム開発、データの収集、AIの高度化など多額の開発資金が必要な一方、リターンを得られる時期は大きく遠のいている。
自動運転だけでなく、電動化やコネクテッドなど多面的な自動車の技術革新に投資しなければならない自動車OEMにとっては、リターン時期が遠のいた自動運転タクシーよりも、最大の台数ボリュームを占める乗用車により魅力的な機能を搭載し、資本効率とマーケットでの競争力を高めていくことを優先したのである。
GMは、2024年12月2日にも、ミシガン州に完成したばかりのバッテリーセル工場を事業パートナーのLG エナジーソリューションズに売却すると発表している※6。これもまた、EVの販売が鈍化し、普及が遅れている状況を踏まえての資本効率化の1つである。
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4.将来のレベル4を見据えながら、短期的にはレベル2の開発競争が激化
今回のGMの決断からは、Ford・VWが両社で出資した自動運転タクシーのスタートアップ「Argo AI」を2022年に畳んだ時の状況が思い出される。Fordはこの時、実現とメリットの享受に時間を要する将来のレベル4ではなく、目の前の数百万人の顧客に安全で快適なレベル2、さらにはレベル3の技術を提供することを優先する決断を行った※7。
しかし、Argo AIへの出資が無駄になったわけではない。翌2023年には、Argo AIの技術者約550人を引き連れ、Fordは自動運転子会社の「Latitude AI」を設立している※8。レベル4の自動運転タクシーサービスの実現を目指したArgo AIの技術者の知見を、乗用車に搭載可能なレベル2の運転支援機能「Blue Cruise」の開発に活用している。
Cruiseがレベル4の自動運転タクシーを一時的にも実現し、サンフランシスコやフェニックスで実際に乗客を乗せ、公道走行を重ねてきな中で培った知見や人材は大きなアドバンテージとなる。目の前のレベル2「Super Cruise」の高度化に活用でき、その先には、また再度、レベル4の実現に向けた動きが見えてくるかもしれない。
自動運転タクシーの実用化が進む中国の新興企業も同様に、レベル4の自動運転タクシーやバスの開発も行いながら、短期的には最大のマーケットに売り込むことが可能な自家用車向けのレベル2の安全運転支援システムの開発を並行して手掛けている。
中長期的なレベル4の開発資金を手に入れるためにも、短期的なリターンが見込める自家用車向けのレベル2の高度化、いわゆる「レベル2+」や「レベル2.9」と呼ばれるADASの開発が自動運転プレイヤーにとっては欠かせないマーケットとなっている。
日本国内に目を向けると、日本政府は、2027年を自動運転レベル4の移動サービスの事業本格化の年に据えている。一時は「2026年初頭に東京で自動運転タクシーを実現」というプランもあったが※9、その一翼を担うことが期待されたCruiseを失ったことで、目算が狂ったのは日本政府とホンダであろう。
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※1GM “GM to refocus autonomous driving development on personal vehicles”, Dec. 10th, 2024
※2 GM “Cruise Business Update Call”, Dec. 10th, 2024
※3 Reuters “GM self-driving unit Cruise admits to submitting false report, will pay $500,000 fine”, Nov. 15, 2024
※4 GM “Cruise resumes manual driving as next step in return to driverless mission”、Updated Jun 11th, 2024
※5 Uber “Uber and Cruise to Deploy Autonomous Vehicles on the Uber Platform”, August 22, 2024
※6 GM “GM to sell stake in Lansing battery cell plant to partner LG Energy Solution”, Dec. 2nd, 2024
※7 Ford “Ford Fulfills Earnings Guidance, Has Strong Cash Flow in Q3; Will Accelerate Development of L2+/L3 ADAS Technology”, Oct. 26th, 2022
※8 Ford “Ford Establishes Latitude AI to Develop Future Automated Driving Technology”, March 2nd, 2023
※9 HONDA「自動運転タクシーサービスを2026年初頭に東京で。Hondaが手掛ける「移動の喜び」の未来」、2023年10月19日