なぜ盛り上がらない?再配達削減ポイント
インターネット通販の増加やトラック運転手不足、温室効果ガス排出量の削減等から宅配便の再配達削減が急務となっている。特に、2024年は4月1日からトラック運転手の労働時間規制が強化され、物流のひっ迫が懸念されたことから、再配達の削減がより注目された。
国は「再配達率削減緊急対策事業」として、事業者に対して再配達削減のためのシステム改修に補助金を出すとともに、2024年10月1日以降、消費者に再配達削減ポイントを付与する費用の1/2を補助するとした1。
2024年10月以降、予定どおり各社の再配達削減ポイントキャンペーンが始まった。大手通販プラットフォームのキャンペーンは≪図表1≫のとおり。
しかし、再配達削減ポイント事業は盛り上がっているとは言い難い。日経テレコンで全国紙のキーワード「再配達」及び「ポイント」を含む記事数を確認すると、≪図表2≫のとおりとなっている。国が再配達削減ポイントの実施をアナウンスしていた7月には7件の記事があったが、実際にキャンペーンが開始された10月、11月には記事はない。
再配達削減ポイント事業が盛り上がりに欠ける理由としては3つ考えられる。
一つ目は、ポイントキャンペーンの複雑さだ。≪図表1≫に示したとおり、各社のキャンペーンにおけるポイント付与条件には、エントリーの要否、くじ引きや山分けの有無、受取り方の指定時期や判定方法、利用できるショップや運送事業者等、様々な条件が付されている。また、キャンペーンの期間もそれぞれ異なる。各社の創意工夫により消費者を刺激する施策にはなっているが、統一した案内や報道はしづらい。例えば、国のウェブサイトにおいても、2024年4月の再配達削減PR月間は、各社へのリンクを一覧にした特設ページ2を設けていたが、今回の再配達削減ポイント事業では特設ページ等の設置は確認できない。
二つ目は、ポイントの相対的少なさだ。国の補助事業は事業者が付与するポイント原資の1/2を、5円相当を上限に補助するとしていた。このため、各社のキャンペーンは概ね10円相当のポイント付与となっている。一方で、各社の販売促進キャンペーンでは20%以上のポイントアップやポイント数倍といったキャンペーンは珍しくない。また、提携しているカードやサービス等の利用、情報連携で、常にポイントアップすることも行われている3。こうした状況で1,000円以上の買い物で10円相当のポイントとすると還元率は1%以下であり、消費者にとって相対的に魅力度が薄れ、手間をかける行動を誘引することは難しいかもしれない。
三つ目は、再配達削減サービスの目新しさの不足だ。今回の補助事業では、各社が必要なシステム改修を行ったうえで、システム改修を行った事業者のキャンペーンに対して国が補助を行うこととなっていた。しかし、各社が再配達削減ポイントの付与対象にしている「配達日時の指定」「置き配」「余裕のある配送」といったサービスメニューはキャンペーン開始前に既に存在していたものである。通販プラットフォームと出店者や運送事業者の連携強化や基盤整備といった改修が促進されているが、消費者からみたサービスとしては新しさに乏しいものとなっている。このため、例えばamazonのキャンペーンでは現在置き配を利用していない人が置き配を新たに指定した場合25ポイントを付与することになっているものの、2024年8月時点でamazonは置き配利用率が80%以上に達している4としており、キャンペーンの対象となる新規利用の余地は少なくなっている。
再配達削減ポイントキャンペーンの注目度は高いとは言い難いものの、消費者の行動変容が進んでいないかといえばそうではない。国土交通省が発表している2024年10月の再配達率は10.2%とコロナ以降では最も低くなった≪図表3≫。また、国土交通省の調査は佐川急便、日本郵便、ヤマト運輸の宅配大手3社によるサンプル調査をもとにしており、大手3社を利用せずに配達されたamazonの置き配等は入っていないため、実際の再配達率はさらに低い可能性がある。10月時点では≪図表1≫のとおり、まだ多くのキャンペーンは開始されていないが、再配達は着実に減少しつつある。
国は補助した事業者に対して再配達の実績等の提出を求めているため、キャンペーンの結果は今後国において分析されるものと期待される。年末の繁忙期に消費者の行動変容をキャンペーンによってさらに促し、再配達を一層削減することは重要だ。ただし、キャンペーン開始前から再配達率が減少していることを考えれば、今後は消費者への啓発活動は引き続き必要ではあるものの、ポイント等の誘導策よりも、置き配ができる環境を整えることや、できるだけ早期に出荷情報を確定して消費者が日時指定をできるようにすることと等、消費者が利用しやすい環境を整備していくこと6が再配達削減にはより重要となるだろう
- 詳しくは、SOMPOインスティチュート・プラス(2024年6月21日)「再配達率削減ポイント10月開始へ~消費者行動変容への取組み~」を参照
- 国土交通省「再配達削減PR月間 特設ページ」https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/re_delivery_reduce_pr.html(最終閲覧日:2024年12月9日)
- 例えば、Yahoo!ショッピングはお得情報を一覧にしている https://shopping.yahoo.co.jp/promotion/campaign/guide/ (最終閲覧日:2024年12月9日)
- アマゾンジャパン(2024年8月8日)「Amazonが2024年の日本のラストワンマイル配送に250億円以上の追加投資を発表」
- 国土交通省(2024年12月6日)「宅配便再配達実態調査結果の推移」p.1
- 再配達削減に向けた課題については、SOMPOインスティチュート・プラス(2023年11月15日)「物流の2024年問題と再配達削減への挑戦」を参照