たばこ増税は防衛財源となり得るか
~増税しても伸びない税収と無視できない逆進性~
2026年度に加熱式たばこの増税が検討されていることが報じられている。防衛費確保のため、たばこ税が増税の対象となる中、紙巻たばこと比較して税率の低い加熱式たばこを先行して増税することで税率を揃え、その後、紙巻たばこ・加熱式たばこを共に増税することが検討されているようだ。
たばこ増税に関しては、二つの問題が存在する。一つは、税率の引き上げが必ずしも税収増に繋がるわけではない点だ。過去30年間のデータをみると、複数回に渡ってたばこ税は引き上げられてきたが、たばこ税収はおおよそ2.0~2.3兆円の範囲内での推移が続いており、税収増には繋がっていない(図表)。増税による負担増に加え、健康増進法の改正をはじめとしたたばこに対する規制・対策によって、たばこの販売数量自体が落ち込んでいるからだ。たばこ税については、今後も税率が段階的に引き上げられていくことが予定されているが、過去の動向をみる限り、たばこ税の引き上げによって税収が増加していく展開は期待しにくい。これまでと同様に、たばこ価格の上昇やたばこに対する規制・対策を背景とした販売数量の減少によって、たばこ税収は伸びないと考えるのが自然だろう。
もう一つの懸念点は、逆進性の問題だ。厚生労働省の調査によると、喫煙率は年収が低いほど高くなっており、低所得層が高所得層以上に税負担をする傾向にあることが示されている1。防衛費という国民全員に関わる費用の負担を喫煙者という特定の層、しかも低所得者の多い層に課すことは、公平性の観点からも望ましくない。
言うまでもなく、防衛費の財源確保は地政学リスクが高まる中において喫緊の課題である。トランプ政権が誕生したことによって、日本が追加的な負担を要求される可能性は高まり、財源確保の必要性は一層高まっている。たばこ増税が財源確保の手段として有効であるとは言い難く、早急に必要な財源を確保することが求められる。
- 厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和4年調査)」。男性のうち習慣的に喫煙している者の割合は世帯の等価所得が200万円未満で30.3%、200万円以上400万円未満で27.6%、400万円以上600万円未満で18.5%、600万円以上で18.6%となっており、女性では200万円未満で9.9%、200万円以上400万円未満で4.9%、400万円以上600万円未満で4.1%、600万円以上で3.3%となっている