企画・公共政策

コロナ禍から脱しても、戻らない忘年会需要

上級研究員 小池 理人

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 今年も忘年会の季節がやってきた。居酒屋等1の書き入れ時であると言える。居酒屋等の動向を振り返ると、売上高は新型コロナウイルスの感染拡大によって大きく低迷した(図表1)。主因となったのは、客数の減少である(図表2)。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった政策的な営業自粛要請によって、客数は急激に減少することになった。2022年3月21日にまん延防止等重点措置が解除された後、飲食全体については緩やかに回復を続け、足もとではコロナ前に近い水準にまで客足が戻っている。しかし、居酒屋等については依然としてコロナ前の6割程度の客足となっており、回復の動きは鈍い。
 もちろん、平時において客足が戻らないといえども、忘年会という行事となれば回復の動きが生じる可能性もある。しかし、そうした動きは生じにくいと考える。コロナ禍での忘年会の中止を機に、コロナ後においても忘年会を開催しない企業が出てきたからだ。東京商工リサーチが2023年12月に実施したアンケート調査2によると、「コロナ禍前は忘・新年会を実施していたが今回は実施しない」と回答した企業は全体の18.7%であり、理由としては「開催ニーズが高くないため」や「参加に抵抗感を示す従業員が増えたため」が多く挙げられていた。2023年の調査であるが、こうした理由は2024年において大きく変化するものではないと考えられ、今年も同様の理由で開催しない企業は少なくないだろう。実際、2024年9月・10月の景気ウォッチャー調査の先行き判断に関するコメント3をみると、「若者の忘年会離れ」や「ハラスメントを気にして忘年会を見送る企業が多い」「大人数の忘年会などは減少傾向である」など、開催ニーズの低さを裏付けるコメントが確認できる。
 まん延防止等重点措置が解除され、経済活動が正常化する中で、飲食全体は回復傾向での推移が続いており、感染を忌避した需要の減少はほぼ解消されたものとみられる。しかし、一度中止されたことによって忘年会のニーズの低さが顕在化したことや、リモートワークの普及によって社員同士が集まる機会が減少したことは、不可逆的な動きであると考えられ、コロナ禍以降も残存する消費への下押し圧力と言えよう。こうした動きは居酒屋等だけに生じる特別な動きではない点に注意が必要である。コロナを起点とした変化は、ウェブ会議システムによる出張需要の低下など、様々な面で消費を押し下げる影響をもたらしている。忘年会のみならず、多くの産業において不可逆的な変化が生じており、コロナ前への回帰が困難になっていることは、改めて認識しておく必要があるだろう。

  • 本稿では、一般社団法人日本フードサービス協会「外食市場動向調査」における「居酒屋」と「パブ・ビアホール」の合計を「居酒屋等」と記載する。
  • 東京商工リサーチ「2023年12月「忘・新年会に関するアンケート」調査」
  • 2~3か月後の景気についてのコメント(9月調査の場合は11月~12月についてのコメント、10月調査の場合は12月~25年1月についてのコメント)
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