企画・公共政策

年末の旅行費用は今年も高くなりそうだ

上級研究員 小池 理人

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 インバウンドの増加によって日本の観光産業が賑わう一方で、日本人による海外旅行の回復が遅れている(図表1)。海外旅行の回復が遅れている理由として、コストの増加が挙げられる。消費者物価指数の外国パック旅行費が大きく上昇していることに示されるように、海外旅行のコストはコロナ前と比較して急激に増加している(図表2)。円の実力を示す実質実効為替レートが1970年代レベルにまで低下したことで、日本人観光客の海外における購買力が低下し、海外旅行のコストが上昇した要因が大きいものとみられる(図表3)。名目為替レートは今年の7月から9月中旬にかけて一時円高方向に向かったが、足もとでは再び円安に振れていることから、海外旅行のコスト増が想起されやすく、多くの人にとって、海外旅行は今年も高嶺の花になりそうだ。
 国内旅行についても、価格の上昇が見込まれる。国内宿泊旅行の単価は上昇傾向での推移が続いており、延べ宿泊旅行者数はコロナ前の2019年の水準を下回っている(図表4)。コロナ禍を脱した後、好況を謳歌する旅行産業の影で、実は日本人宿泊者数はコロナ前の9割程度の水準に止まっている。2022年3月21日にまん延防止等重点措置が解除されたことで、制度的・心理的な旅行需要の下押し要因が取り払われ、日本人宿泊者数のマイナス幅は縮小方向に向かった。しかし、外国人観光客の受入れが再開された2022年6月10日以降、旅行単価の伸び率拡大が続いたため、日本人宿泊者数の回復は頭を押さえられることになったものとみられる。もちろん、インバウンド需要の増加による日本経済への恩恵は大きく、外国人観光客の誘致は今後も進めるべき戦略である。しかし、需要増による価格の押し上が日本人の旅行需要を押し出す効果も少なからず生じており、年末の旅行需要拡大期において、そうしたインバウンド拡大の負の側面はこれまで以上に目立つことになりそうだ。

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