企画・公共政策

点検:国民民主党の経済政策
~”シン・連立”の行方~

統括上席研究員  濱野 展幸

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10月27日の衆院選の結果を受け、今後の政権運営のあり方をめぐって、各党の動きに注目が集まっている。自民党・石破総裁は、衆院選後の記者会見で公明党以外との連立は否定したものの、「議席を大きく伸ばした党がある。選挙でどのような主張をし、国民が共感し共鳴したかを認識していかなければならない」「政策で取り入れるものは取り入れていくことは必要だ。政策で私どもの足らざるところ、改めるべきところは積極的に取り入れていく」と述べ、他党との連携を示唆した。一方、立憲民主党・野田代表も、「各党と誠意ある対話をしていく」と述べ、間もなく開かれる特別国会での首班指名をはじめとする協力を呼び掛けている模様だ。こうした中、公示前の7議席から28議席となった国民民主党が、キャスティングボードを握ったことは衆目の一致するところだろう。首班指名選挙について国民民主党・玉木代表は、10月29日の記者会見で、国民民主党は決選投票でも同氏に投票すると明言しており、このコメントどおりに行動すれば、「石破政権」が続くことになる1

日本は「55年体制」が長く続いたことや、その後も二大政党制を視野に入れた小選挙区制を取り入れたことなどから、ハング・パーラメント2をほとんど経験していない。今後はハング・パーラメントにおける政策決定の手法を確立していく必要があろう。

本稿では、「石破政権」が今後も続き、その中で、国民民主党が掲げる政策が議論の俎上に載っていくというシナリオ・前提で、注目の政策について中身を点検したい。

1.所得税の基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げ

国民民主党は、所得控除の最低ライン103万円(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)から178万円の引き上げを掲げている。実質的に所得減税(国と地方の合計で年約7.6兆円との報道がある)となり、消費刺激策になるとの主張である。

論点の一つは、減税額=(178万円-103万円)×税率(5%~45%)となるので、累進税率を考えると、高所得者層ほど減税額が多くなることだ。玉木代表のXによると、減税額は給与所得200万円の場合には8.6万円、給与所得1,000万円の場合には22.8万円になる。直近までは逆に、高額所得者の税負担が増える改正が続いていたため、本政策により勤労意欲の減退等に歯止めがかかるという考え方がある一方で、格差拡大が社会課題とされていることとの整合性や、一般的に高所得者ほど限界消費性向が小さいとされている点をどう考えるかが焦点となる。

加えて、財源の裏付けのない数兆円規模の減税が金融市場にどのように受け止められるかも考慮する必要があろう。例えば英国では、2022年9月にトラス政権が450億ポンド(約7兆円)の減税策などを発表したことで、英国債・ポンドが急落(英国10年利回りは8月1日1.79%⇒10月10日4.49%、ポンドドルは8月1日1.228$⇒9月28日1.074$)し、政権発足後50日足らずで辞任に追い込まれた。日本では同様のことが起こらないという保証はない(≪図表1≫参照)。

また同政策が、いわゆる「年収の壁」と言われる就労調整の解消につながるとの意見もあるが、より高い「壁」は、社会保険料の負担により手取りが減る106万円・130万円であり、本政策による効果は限定的と見る(≪図表2≫参照)。

2.トリガー条項の凍結解除

トリガー条項とは、小売物価統計調査による揮発油の平均小売価格が連続3か月にわたり160円/ℓを超えたとき、上乗せされている特例税率を停止する措置であり、ガソリン価格にすると25.1円/ℓに相当する(価格が下落する)。ただし東日本大震災の際、トリガー条項発動によるガソリン需給の混乱や、復旧・復興のために必要な財源の確保といった観点から、別途法律で定める日までの間、トリガー条項の発動を凍結することになっている。

国民民主党はトリガー条項の凍結解除を主張しており、足元のガソリン小売価格を勘案すると、即座にトリガー条項が適用される。トリガー条項の凍結解除については、2022年に自民党・公明党・国民民主党(以下、3党)による検討チームが立ち上がったが、検討結果の公表に留まり、結論を得なかった。また2024年にも3党が再び協議したものの、国民民主党は「協議が進まない」(2月13日・玉木代表記者会見コメント)として協議から離脱した。

2022年4月に3党が公表した検討結果によると、トリガー条項解除の課題として、「①重油・灯油にはトリガー条項の対象となる揮発油税・地方揮発油税がかかっていないため対応できない(補助金は対象)」「②発動・終了時の大幅な価格変動が需要の大きな変動につながり、流通に混乱をきたす」「③小売物価統計調査に基づく判断であるため、日々変動するガソリン価格の動向に機動性・柔軟性をもって対応できない」等が挙げられている。

もう一つの論点は、いったんトリガー条項が発動した後、特例税率の適用を再開する要件は、「揮発油の平均小売価格が連続3か月にわたり130円/ℓを下回る場合」となっていることだ。ガソリン価格は2017年以降、安定的に130円を下回っていたことはなく、実質的に恒久減税となる可能性も考えられる(≪図表3≫参照)。国民民主党は一方でカーボン・ニュートラルの促進も掲げている中、トリガー条項の凍結解除は、価格シグナルを通じた脱炭素促進の阻害要因になりかねず、政策間の整合性は課題となろう。

3.その他の注目政策

その他の政策としては、「年5兆円程度の教育国債を発行して子育て予算と教育・科学技術予算を倍増」するとしている。「教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的経費」「財政法を改正」とあることから、公共事業費等の財源として認められている建設国債(赤字国債とは異なる)が念頭にあるのだろう。ただ、「将来につながる投資的経費」が理由とすれば、教育だけでなく他分野への拡大に歯止めがかからないことが懸念される。

また、「賃金上昇率が物価+2%に達するまでの間、消費税減税(10%→5%)」を主張しているが、選挙期間中に石破総理が「消費税を減税するやり方を取ったとしても社会保障の安定的な財源が確保されない」と発言しているように、実現までの道のりは険しそうだ。

一方、自民党の公約と共通する政策は、前に進みそうだ。例えば原子力政策については、「次世代革新炉の開発・建設(リプレース・新増設を含む)」を進めるとしており、「原子力発電所の新増設は認めません」としている立憲民主党とは一線を画す。さらには、社会保障政策にも共通点が見いだせる。「年齢ではなく能力に応じた負担」を掲げ、「後期高齢者医療の医療費の自己負担について原則を2割」3と訴えている。現役世代の支持を集めたとされる国民民主党の「みんなの手取りを増やす」というキャッチフレーズと整合的であるものの、医師会や高齢者からの反発が大きい政策であるだけに、揺らぐことなく実現できるかが注目される。

  • 決選投票は「過半数を得た者」ではなく「多数を得た者」が当選者となるため。
  • 「宙づり議会」のこと。議院内閣制の政治体制において、議会(パーラメント)でいずれの政党も議席の単独過半数を獲得していない状態のこと。
  • 現状は「現役並み所得者は3割、一定以上の所得がある人は2割」となっており、厚生労働省の推計によれば、後期高齢者医療制度の被保険者のうち、3割負担の人は僅少(被保険者の10%に満たない)、2割負担の人は約20%である。
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