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2024年9月能登半島豪雨災害でのドローンの活用
~活かされた地震の経験と残された課題~

上級研究員 水上 義宣

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能登半島では、2024年9月21日から23日にかけて記録的豪雨に見舞われた。2024年1月1日の地震に続き大きな災害となった。

1月の能登半島地震での、ドローンの活用と課題については拙著「災害時のドローン活用に向けて~能登半島地震と大分県の事例から~」でお伝えした。被害の状況把握、調査・測量から孤立した場所への医薬品等の配送まで様々な場面でドローンが活用された。一方で、民間ドローンが飛行を開始するまでには発災から5日を要した。救助等のために飛行しているヘリコプター等との衝突を防止するため、被災地でのドローンの飛行には原則として地方自治体等からの依頼が必要となる1。地方自治体等がドローンを活用できる場面を把握し、民間のドローン事業者に被災地での飛行を依頼し、さらにヘリコプター等や他のドローンとの衝突を防止するために飛行の時間や場所を調整する必要がある。地方自治体等とドローン事業者の連携を密にし、こうした一連の手順をスムーズに進めることが今後の課題となった。

2024年9月の豪雨災害では、発災直後の9月23日にドローンによる被害状況の空撮が行われ、石川県がYouTubeに被害状況の映像を公開した2。また、9月24日には、石川県から、ドローンの業界団体である日本UAS産業振興協議会(以下「JUIDA」)や、空撮等を行っているKDDI及びKDDIスマートドローンに飛行の要請が行われ、同日から民間ドローンも飛行した3

JUIDAの嶋本氏によると、1月の地震の際は、JUIDAから地方自治体の飛行ニーズを探り、依頼を働きかける状況だったが、今回は石川県からただちに要請が来たとのことだ。また、ドローン事業者側も、1月の地震の際はスタートアップ企業等が多いことから、必要な備品の把握や準備に手間取った事業者もあったが、今回は発災時点から準備を開始しすみやかに能登半島に向かった事業者が多かったという4

地方自治体等からの依頼を受けた後も、実際に飛行するためには、他の無人航空機やヘリコプター等有人機と飛行する空域や時間を調整し、航空情報の発行等を受ける必要がある5。今回飛行させた各者によると航空局等とのこうしたやりとりについても1月の地震の際には最大で数日程度を要していたところ、今回は数時間以内で迅速に処理されたそうだ6

通信途絶等の厳しい状況でも早期に長距離のドローンによる飛行が行われたことも今回の特徴だ。ドローン配送事業を行っているNEXT DELIVERYは、孤立した集落に食料等を配送≪図表1≫したが、届け先の下山町は電波状態が悪く遠隔監視の電波が途絶していた7。ドローンを操縦者の目の届かない目視外に飛ばす場合、一般的にはカメラ等の映像や機体の状態を常に取得し、すみやかに介入できる状態を維持することで地上や周囲の安全を確保して運航することが求められる8。NEXT DELIVERYによると、今回は自衛隊員による補助と綿密な下見等により、機体との通信ができない状況でも周囲の安全を確保した状態で飛行できたという9

また、ドローンの製造・販売・サービス提供を行うACSLは、物流用に開発している機体の荷物搭載部分に調査用のカメラを搭載して飛行した。物流用の長距離飛行ができる機体を使うことで、往復22kmを要する道路の被災状況調査を行うことができた≪図表2≫ 10

≪図表1≫孤立集落への物資輸送
≪図表2≫道路被害調査の飛行経路

こうしたドローンの運用を拡大し、持続可能とするためには、費用と機体の仕様に関する体制が課題となる。

ドローン事業者にはスタートアップ企業等が多いことを考えると、企業の善意での運用には限界がある。例えば、大分県は災害協定による物資輸送を有償の業務請負契約と定めている13。災害協定等により費用負担が明確になれば、企業側も安心して出動できるようになるだろう。

また、費用の低減において重要なのがマルチユース14とフェーズフリー15だ。今回、ACSLは物流用機体にカメラを搭載することで空撮調査に対応した。NEXT DELIVERYも平常時は石川県小松市等で運用している機体を転用して、支援物資の輸送を行った。平常時からのドローン活用を進めるとともに、空撮と物流を兼ねるといったマルチユースを行って機体の稼働率を高めることにより費用の低下が可能になると考えられる。

こうした運用で課題となるのが機体の仕様及びその申請だ。目視外飛行等の国土交通大臣による許可・承認や機体認証を得る必要がある飛行を行う機体は、許可・承認や認証を受けている範囲を超える運用や改造は認められない。このため、マルチユースを実現するには、荷物搭載部にカメラを搭載すること等を前提として審査を受ける必要がある。また、フェーズフリーを実現するには、災害時や訓練時の部品交換や改造及び復元について、機体認証や許可・承認への影響を最小限にするような手順及び制度の在り方の検討が必要と考えられる。

さらに、今回は通信途絶下での飛行も行われている。国土交通省の審査要領では目視外飛行における電波断絶時のフェイルセーフ機能の例として、「離陸地点まで自動的に戻る機能(自動帰還機能)又は電波が復帰するまで空中で位置を維持する機能」16をあげている。しかし、今回のように電波が断絶しても補助者等によって安全を確保して飛行を継続する場合には、自動帰還や空中での位置を維持する機能を無効にする必要がある。つまり、災害時にも活用できるためには、電波が断絶しても自律して確実に飛行できる機能を備えることや、あるいは災害時等やむを得ない場合で、補助者等の十分な安全対策ができていれば、自動帰還等を無効に設定できること等が必要になる。

平常時だけでなく災害時の活用も視野に入れる場合、運用する環境に対応できる機体を選定するか、災害時には、すみやかに設定や運用の変更が行えるメーカー等の支援体制がある機体を選ぶことが重要となる。

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