企画・公共政策

石破「首相」の経済政策
~発言からの“先読み”~

統括上席研究員  濱野 展幸

自民党は9月27日投開票の総裁選で、石破茂氏を総裁に選んだ。石破総裁は、10月1日召集の臨時国会で第102代首相に就任予定だ。今回の自民党総裁選は、過去最多の9名が立候補、最後まで展開が読めず、金融市場の乱高下も「読み」が外れた結果と言えよう(≪図表1≫参照)。本稿では、金融市場が揺れる要因となった石破「首相」の経済政策運営について、石破氏の総裁選政策集や、会見の発言に基づいて先読みする。
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1.金融所得課税

金融所得課税とは、預金や株式、投資信託といった金融商品で得た配当金や利子、株式譲渡益など(総称して金融所得)に対して税金を徴収することを指す。他の所得とは切り離して課税される申告分離課税で、税率は一律で20.315%(20%+復興特別所得税0.315%)となっている。一方、給与所得や事業所得などには、所得金額に応じて5~45%の累進税率が適用される。所得総額が多い人は所得全体のうち、金融所得の占める割合が高いため、所得総額1億円あたりを境に、所得税の負担率が低下しており(≪図表2≫参照)、不平等・格差の助長という批判がある(いわゆる「1億円の壁」問題)。

石破氏は総裁選前のテレビ番組において(9月2日)、格差是正の話題の中で、金融所得課税の強化に関する質問に対し、「それは実行したいですね」と答えた。この発言に対し、他の総裁候補から否定的な反応が相次ぎ、その後、石破氏は「新NISA(少額投資非課税制度)、iDeCo(個人型確定拠出年金)で所得を上げていく方々に課税強化するなどということは毛頭考えていない」と釈明したと伝わっている。

金融所得課税を強化する手段は主に、新NISA等の限度額を超える部分の税率を上げること、または金融所得を総合課税化することが考えられる。ただし、石破氏の問題意識だと思われる「1億円の壁」を解消するためには、前者であれば、投資を行っている低中所得者層にも影響が及び、後者であれば、創業者利益への課税が強化され、スタートアップ促進に逆行する等の課題が多く、金融市場からの評価も芳しくない。

こうしたことから、課税強化は先送りされると見る。総裁選の際に石破氏が示した政策集(以下、「政策集」)や、出馬の際の「政策発表記者会見」(9月10日)、総裁選直後の記者会見でも、金融所得課税に触れなかった。

2.法人税

石破氏は総裁選中のインターネットネット番組において(9月21日)、上げるべき税に関する問いに対し、「法人税は上げる余地があると思っている。」「負担する能力がある法人はまだあると思っている。」と答えた。その後、発言を修正したというニュースは伝わっていないので、実行の可能性はあるが、「金融市場の反応次第」といった部分もあろう。一方、政策集には「中小企業を含めた高付加価値化・賃上げを実現するため、税制などで民間投資を刺激」「スタートアップ企業の支援策や税制上の措置を拡充するとともに、投資を一層促進するための税制改革を行います。」とあるため、現行の中小企業向け投資促進税制や賃上げ促進税制、スタートアップ関連税制(エンジェル税制・オープンイノベーション促進税制など)は継続すると見られる。

3.地方創生

石破氏は初代の地方創生担当大臣を務めたこともあり、地方への思い入れは強いとされる。政策集では、「日本経済の起爆剤としての大規模な地方創生策を講じます」とあるが、目新しい具体策としては、「新しい地方経済・生活環境創生本部(仮称)を創設し、担当大臣を設置」しか見当たらない。「政策発表記者会見」の質疑応答では、地方創生に関わる交付金について、地方の自由度を高めるとの発言があった。現在、デジタル田園都市国家構想交付金として約1,000億円が予算措置されているが(そのほか毎年、補正予算が計上されている)、使途の自由化・増額の可能性はある。施策を打った後は、地方創生を目指して投入した予算に、成果が伴っているかが問われることになろう。

4.エネルギー政策(原発)

8月に石破氏の地元である鳥取で行った出馬表明会見では、「原発ゼロに近づける努力は最大限する」としていたが、政策集では「AI 時代の電力需要の激増も踏まえつつ、(中略)、安全を大前提とした原発の利活用、(中略)日本経済をエネルギー制約から守り抜きます」とあり、微妙に軌道修正しているように見受けられる。「政策発表記者会見」の質疑応答でも、「小型の原発というものが、どこまで可能性があるのかということも追求していかなければなりません」と答えたところを見ると、石破氏の理想・政策目標は念頭に置いたうえで、岸田政権の「現実路線」を当面は引き継ぐと見られる。

5.コストカット型経済から高付加価値創出型経済への転換

経済財政運営と改革の基本方針2024(いわゆる骨太の方針2024)では、「コストカットが続いてきた日本経済を成長型の新たなステージへと移行させていく」とある。政策集では「成長型」を「高付加価値創出型経済」と言い換えている。「政策発表記者会見」や総裁選直後の記者会見では、GDPに占める輸出の割合について、ドイツ47%・韓国44%・日本18%と具体的な数字を挙げ、産業・生産拠点の国内回帰を訴えており、輸出に強い関心を持っているようだ。今後は具体的な方法論を待つところだが、前述の法人税に関する考え方や、金融政策に対するこれまでの発言に基づく市場の反応(円高)は、向かい風になろう。

6.総論

総裁選直後の記者会見で「新しい資本主義にさらに加速度をつけてまいりたい」と発言しているとおり、政策集や会見内容をつぶさに見ていくと、岸田「前」首相の経済政策運営から大きな変化はなく、まずは「安全運転」でスタートすると見る。ただし、総選挙が27日に行われる方向にあり、石破氏が経済政策運営の「フリーハンド」を得るかどうかは、選挙結果次第だ。

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