企画・公共政策

企業規模別の賃金動向を考える

上級研究員 小池 理人

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 2024年度の春闘では平均賃上げ率が5.1%となり、33年ぶりの5%超えを達成した。2023年度以降、賃上げが大きく進展しており、物価と賃金の好循環の実現も期待されている。ただ、賃金上昇の動きが一律でないことについては留意する必要がある。賃上げの恩恵が一部の企業に限定される場合、賃上げの消費への波及効果が弱まる可能性があるからだ。
 オンライン求人広告のWebスクレイピングによって作成されるHRog賃金NOWをみると、企業規模が大きいほど募集賃金が高いことが示されている(図表1)。賃金の違いが生じる要因としては、労働生産性(一人当たり付加価値額)の相違が挙げられる。労働生産性と賃金との間には強い相関関係があり(図表2)、一人当たりの稼ぎが多くなければ、長期的な賃金上昇が困難であることが示されている。労働生産性に目を向けると、賃金と同様に、企業規模が大きいほど労働生産性が高いことが確認できる1(図表3)。資本金10億円以上の大企業とそれ以外の企業においては、明確に労働生産性に違いが生じており、全体の底上げのためには、中堅企業・中小企業の労働生産性の引き上げが重要になる。
 中堅企業・中小企業の労働生産性の引き上げは、事業の継続性を高める意味でも重要である。中堅・中小企業の労働分配率は大企業と比較して高く(図表4)、これ以上の賃上げは企業利益を大きく毀損することになりかねないからだ。労働力人口が減少し、人材獲得競争が激化する日本においては、賃上げの継続的な実施は企業にとって死活問題であり、利益のみならず、賃上げの有無も企業活動継続の重要な要素となっている。人材獲得による事業の継続性を高める観点からも、価格転嫁の実施やデジタル化・省力化によるコストの削減により、労働生産性を一層高めていく必要がある。経済産業省が行う下請け取引適正化・価格転嫁対策等の政策的な取り組みも追い風となるだろう。
 2025年度の春闘は、2023年・2024年とは物価上昇圧力の緩和という点で異なるものになる可能性が高い。今後、物価上昇率は緩やかながらも鈍化する可能性が高いため、春闘において生活防衛という錦の御旗の効力が弱まると考えられるからだ。2025年度にも高い賃上げを実現するためには、賃上げ余力が少なくなってきている中堅・中小企業の労働生産性を向上させ、賃金上昇の底上げを行う必要があるだろう。

  • HRog賃金NOWの企業規模は従業員数によって分類され、法人企業統計の企業規模は資本金によって分類されている点には留意する必要がある。
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