シティ・モビリティ

中国の自動運転ユニコーン、続々と世界攻勢へ
ーWeRideが米国でIPO間近、Pony.ai、Momentaも続くかー

上級研究員 新添 麻衣

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 ※更新(2024年11月1日)
 10月下旬にWeRideがナスダックでIPOを果たすなど、最新の状況をまとめたレポートを発行しました↓↓
  米中の自動運転ユニコーン、10月はIPOや資金調達が活況
  ー米Waymoの圧倒的存在感、中国からはWeRideがナスダックでIPO、Pony.aiもIPO間近ー

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 7月26日、中国の自動運転ユニコーンWeRide(文遠知行)が、Nasdaqで株式を新規公開すべく米国証券取引委員会(SEC)にIPOの申請を行った※1。モルガン・スタンレー、JPモルガン、中国国際金融(CICC)が主導し、最大で159,045,000株を発行する。このうち、ルノー・日産・三菱のVCファンドであるAlliance Venturesがコーナーストーン投資家として9,700万ドル(約145億円、取得株数は未定)分を引き受けることが決定している。

 WeRideは現在、中国、米国のほか、シンガポールとドバイの4カ国・地域で無人走行の許可を得ており、Fortune誌の「世界を変える企業2023」では8位にランクインしている※2。中国国内では、主にレベル4を目指したロボバス、ロボットタクシーを運行している。同社の自動運転システムは多彩な用途車種に展開可能で、バンや道路清掃車も手掛ける。中国ではインフラのメンテナンスの無人化への期待が高く、自動運転の道路清掃車を手掛けるプレイヤーが散見される。マイカーを想定した乗用車向けのシステムも開発している。

 2023年から日産が蘇州で実験的に展開しているロボットタクシーにも、WeRideのシステムが採用されている※3。今年5月には、全仏オープンの会場でルノーの新型自動運転車両がお披露目されたが、これもWeRideのロボバスであった※4。WeRideにとっては、これが初めての欧州での走行となった。

WeRidのロボバス(自動運転バス)の走行シーン画像。中国の無錫市にて。

<米中対立で厳格化されていた中国スタートアップの海外IPO>
 米中対立の中、2021年に配車アプリのDIDI(滴滴)がニューヨーク証券取引所でIPOを果たしたのを最後に※5、中国政府は自国企業の海外IPOについて、データの取扱いなどの安全保障上の理由から監督を厳格化し、中国証券監督管理委員会への事前申請を必須としてきた。WeRideに対しては、承認から12か月以内にIPOを行う前提で、昨年8月25日に米国でのIPOの承認が下りていた※6

 この委員会の資料を見ると、WeRideに続き、ユニコーン級の自動運転スタートアップが米国でのIPOを目指していることが分かる。今年に入り、4月にはPony.ai(最大98,149,500株の普通株を発行予定)が※7、6月にはMomenta(最大63,352,856株の普通株を発行予定)が海外IPOの承認を得ており、Nasdaqまたはニューヨーク証券取引所への上場を目指している※8

 Pony.aiは、トヨタとの合弁で中国国内では一線都市(北京、広州、上海、深圳)の全てで自動運転タクシーを展開している。米国でも走行実績を積んでいるほか、サウジアラビアやルクセンブルクへの進出も計画している。同社のシステムもまた、トラックや自家用車にも展開可能となっている。早ければ、今年9月にIPOを実現するのではないかとの報道が出回ったが、Pony.aiはノーコメントを貫いている※9

 蘇州発のMomentaは、中国国内で自動運転タクシーを展開するが、国内外で自動運転システムの外販も行う。創業以来、トヨタ、メルセデス、上海汽車、ボッシュなどの大手自動車OEMやTier1から資金を調達しており、直近では、2025 年 4 月に生産開始される予定のメルセデスの新型車両にMomentaのシステムが採用されるのではないか、との報道も出回っている※10

中国の蘇州市にあるスマートシティ地区:相城区でのロボットタクシー(自動運転タクシー)の走行シーン。WeRideと組んだ日産(左)と現地Momentaの車両(右)
※アプリやWeChatの公式アカウントから乗車・降車地点を指定して配車するが、中国の自動運転タクシーは利用登録時に「現地で有効な電話番号」 か「国民ID」を求めるサービサーがほとんどのため、海外からの来訪者が利用するには、現地の居住者や駐在員のサポートが必要。

<テスラをベンチマークにしたスマートEV開発が鍛える自動運転システム>
 EVの文脈で注目されることの多い中国の自動車市場だが、テスラをベンチマークにした中国の新興企業の自動車開発は、パワートレインでは電動化を意識しつつ、ユーザーに提供する機能としてはテスラのオートパイロットさながらのレベル2の運転支援機能の提供を一押しの装備としている。テスラ同様、高精度3Dマップを用いず※11、カメラの画像解析を主軸に、安価な自動運転の運転支援機能を実現することを目指している。

 レベル2のため、運転中や事故時の責任は運転席のドライバーにあるものの、3Dマップの作成済みのエリアに走行ルートが縛られないため、ODD(運行設計領域)は現状のレベル4の車よりも広くなる。また、レベル2として販売することで、最大の台数規模がある乗用車を対象に自動運転システムを納入できるため、新興企業としては参入を図りたいマーケットとなっている。

 したがって、中国の自動運転プレイヤーの間では、レベル2の乗用車・マイカー向けと、レベル4のバス・タクシー、トラックなどの商用車向けの2つのレベルの自動運転システムの開発が並行して活況となっている。

 中国では、「自动驾驶 (自動運転)」という単語も使われるが、どちらかというと「智驾 (インテリジェント・ドライビング、レベル2を指すときに用いられる)」「智能网联汽车(インテリジェント・コネクテッド・ビークル、レベル4を指すときに用いられる)」という「スマートカー」を指す用語が用いられることが多い。レベル2~4が一体となった概念と言える。「EV御三家」の1つ 小鵬汽車(Xpeng)もVWから出資を受け、スマートEVの共同開発を始める※12

 米中対立を背景に米国での事業拡大が難しい間、中国勢はレベル2の自動運転ソフトやレベル4の車両を武器に、欧州の大手OEMを攻略しつつある。また、中国勢にとっては、1線都市〜1.5線都市がそれぞれ1千万〜3千万人規模の人口を抱えており、レベル2を搭載したマイカー、レベル4のバスやタクシーの公共交通、どちらも国内でもマーケットが成立するのも強みだ。米国でIPOを果たす見込みのプレイヤーも増え、自動運転市場での中国勢の存在感はますます強まっていく。


※1 SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION, July 26, 2024 WeRide申請書類
※2 https://fortune.com/company/weride/
※3 WeRide “日产出行无人驾驶Robotaxi开启试运营,文远知行提供技术支持”
※4 WeRide “Driverless Minibus Hits the Clay Courts at Roland-Garros”
※5 DIDI “DiDi Announces Pricing of Initial Public Offering”、2021年6月30日
※6 中国证券监督管理委员会「关于WeRide Inc.(文远知行公司)境外发行上市备案通知书」、2023年8月25日
※7 中国证券监督管理委员会「关于Pony AI Inc.(小马智行股份有限公司)境外发行上市备案通知书」、2024年4月22日
※8 中国证券监督管理委员会「关于Momenta Global Limited(梦腾智驾环球有限公司)境外发行上市备案通知书」、2024年6月17日
※9 东方财富「拟9月赴美IPO?小马智行回应“暂无更多消息透露” 此前已通过境外上市备案」、2024年7月26日
※10 36Kr「奔驰将采用Momenta轻图城区方案,CLA车型搭载,明年4月落地|独家」2024年6月6日
※11 テスラ風のカメラ偏重の自動運転システムが発達した背景には、安全保障上の理由から、中国政府が地図業者への規制を強化したため、自動運転関連企業が高精度3Dマップを調達しづらくなり、別の方法での自動運転技術を高めざるを得なくなったという事情もある。
※12 Volks Wagen Group “Ready for next EV push: Volkswagen enters into agreement with XPENG for fast joint development of two smart e-cars”、2024年2月29日

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