シティ・モビリティ

政府計画に見る未来の物流インフラ
~ダブル連結トラックから自動物流道路構想まで~

上級研究員 水上 義宣

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政府は2024年7月25日に「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」(以下「物流関係閣僚会議」)を開催し、「2030年度に向けた政府の中長期計画」等の進捗状況を確認した。

日本は貨物輸送量の9割以上をトラックに依存しているが、長時間労働や低賃金等によりトラック運転手が不足している。特に2024年4月1日に労働時間規制が強化されたことから「物流の2024年問題」といわれた。今後も少子高齢化等からトラック運転手不足は深刻化し、2030年度にはトラック輸送力が34%不足1すると試算されている。また、脱炭素の観点からも、トラック輸送の効率化とトラック以外の多様な輸送手段の確保が必要だ。

物流関係閣僚会議では、2030年度に向けた未来の物流インフラ整備が示された。このうち、トラック輸送の場合に長時間運転となる、地域間輸送力の増強を主眼とするものを赤枠で示した≪図表1≫。以下、内容を見ていく。

≪図表1≫2030年度に向けた物流インフラ整備

まず、トラックについては大型トラック2台分の輸送力を持つダブル連結トラックの利用を促進する。ダブル連結トラックは、車体が長いことから道路通行にあたって個別に許可を取得する必要がある3。2024年9月までにその許可を取得できる高速道路を現行の約5,140kmから約6,330kmに拡大する4。また、ダブル連結トラックは現在、許可申請が個別にしか行えないが、2024年度中にシステムで行える特車確認制度を使えるようにする5。特車確認制度の対象となれば、申請が容易となり、使用する会社が増えることが期待される。

長期計画では、自動運転トラックの実現も進められる。政府は、デジタルライフライン全国総合整備計画において、2024年度中に新東名高速道路の駿河湾沼津~浜松間に自動運転サービス支援道路を整備するとした。また、経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が自動運転トラックに関する補助を行っており、補助対象事業者も採択された6。補助対象事業者の1つであるT2は、2027年には自動運転トラックを活用した事業を実現することを目指している7

次に、船舶では、フェリーやRORO船8の利用拡大を目指し、港湾の機能強化や内航船の新造支援等を進める9。また、内航船員も高齢化が進んでいることから、今後の船員不足を見越した自動運航船の開発も進める。国土交通省は、2024年6月27日から自動運航船検討会を開催しており、2025年6月を目途に自動運航船の基準・検査方法や実証運航の実施方法を決定する予定10である。自動運航船の実証実験を進めている日本財団では、2025年までの無人運航船実用化を目指している11

最後に、新しい輸送モードとして自動物流道路が計画されている。自動物流道路とは、縦横1.1m、高さ1.8mに標準化された荷物を、自動輸送カートによって、高速道路等の地下、中央分離帯、路肩等の空間に設けられた専用施設を通って搬送する全く新しい物流インフラである≪図表2≫。従来のトラックや鉄道、船舶と比べると小口で時間を選ばず自動で搬送できることが利点である。まずは、新東名高速道路の新秦野~新御殿場間等に実験線を設け、将来的に東京~大阪間に敷設する構想となっている。全く新しい取組みであるため、技術面、制度面や費用対効果の検証等課題も多く、実現には相応の時間がかかる12。また、搬送速度や費用等も今後の技術開発等による13ため、幹線輸送が適した用途であるかも含め慎重に判断する必要がある。

≪図表2≫自動物流道路のイメージ

以上のとおり、政府は2030年度に向けて短期から中期的にはダブル連結トラックの利用拡大や船舶・港湾の整備等で輸送力を確保するとともに、長期的には自動運転トラック、自動運航船、自動物流道路等の自動化技術の開発を進め輸送力を確保する方針を示した。

一方で、今回大きな輸送力増強が示されなかったのが鉄道である。政府は、今後10年程度で鉄道コンテナ輸送量を倍増するとしているが、鉄道貨物に関する取組みは、トラックとの積み替えが容易な31ftコンテナの導入支援や災害時の代替手段の確保といった利便性向上が中心となっている。しかし、JR貨物によると2022年度の鉄道貨物の積載率は70.1%15となっており、倍増に向けては輸送力増強が不可欠である。JR貨物は、旅客鉄道会社から線路を借りて運行しているため、増発や設備の増強には旅客鉄道会社との合意を要する。JR貨物が旅客鉄道会社に支払う線路使用料はトラックとの競争力確保や国鉄民営化の経緯から低く抑えられており、旅客鉄道会社との調整は容易ではない。旅客鉄道会社を取り巻く経営環境も厳しさを増す中、輸送力増強には費用負担等の在り方も含め政策的調整を要する16

少子高齢化が進む中、将来必要な輸送力を確保するためには、自動運転トラックや自動物流道路といった選択肢とともに、鉄道貨物の輸送力増強の在り方も含めて、費用対効果や実現可能性を見極めた各物流インフラへの投資判断が求められる。

  • NX総合研究所(2022年11月11日)「「物流の2024年問題」の影響について(2)」p.10
  • 物流関係閣僚会議(2024年7月25日)「「物流革新に向けた政策パッケージ」の進捗状況と今後の対応」
  • 詳しくは、SOMPOインスティチュート・プラス(2022年11月15日)「ダブル連結トラックの課題と普及に向けて」を参照
  • 国土交通省(2024年7月25日)「「長さが21メートルを超えるフルトレーラ連結車に係る特殊車両の通行許可の取扱いについて」の一部改正(ダブル連結トラックの対象路線の拡充)について」
  • 国土交通省(2024年7月9日)「ダブル連結トラックの通行区間の拡充について」p.14
  • 令和5年度補正モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援補助金事務局(2024年7月12日)「令和5年度補正モビリティDX促進のための無人自動運転開発・実証支援補助金に係る間接補助事業者の採択結果について」及びNEDO(2024年7月23日)「「産業DXのためのデジタルインフラ整備事業/デジタルライフラインの先行実装に資する基盤に関する研究開発」に係る実施体制の決定について」
  • T2、佐川急便、セイノーホールディングス(2024年7月11日)「日本初、レベル 4 自動運転トラック幹線物流輸送実現に向けた公道実証を開始 ~T2・佐川急便・セイノーHD、サステナブルな物流の実現に向け、自動運転トラックによる幹線輸送の可能性と実用性を検証~」
  • 貨物を積んだトラックやトレーラーがそのまま自走して乗り込み、運搬できる船舶
  • 内航船舶の課題とインフラ整備方針については、国土交通省(2024年3月)「次世代高規格ユニットロードターミナル検討会 「物流の2024年問題」等に対応した内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化 とりまとめ」を参照
  • 国土交通省(2024年6月27日)「自動運航船検討会 検討会の進め方」
  • https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/meguri2040(最終閲覧日:2024年7月26日)
  • 国の検討会は、小規模な改良で導入できる先行ルートでの実現目途を10年後としている。(出典:国土交通省(2024年7月25日)「自動物流道路に関する検討会 中間とりまとめ(概要)」)
  • スイスで計画されている類似のインフラCargo Sous Terrainの場合、搬送速度30km/h、第一期事業区間チューリッヒ~ハーキンゲン・ニーダービップ間70kmの事業費36億スイスフラン(約6,200億円)としている。(出典:https://www.cst.ch/en/the-project/(最終閲覧日:2024年7月29日))
  • 国土交通省(2024年7月25日)「自動物流道路に関する検討会 中間とりまとめ(概要)」
  • JR貨物(2023年7月26日)「貨物鉄道輸送の現状と「今後の鉄道物流の在り方に関する検討会」中間とりまとめへの対応状況」p.7
  • 鉄道貨物や線路使用料の現状と課題については、国土交通省(2022年7月28日)「変化し続ける社会の要請に応える貨物鉄道輸送の実現に向けて~検討会中間とりまとめ~」を参照。
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