シティ・モビリティ

五島列島で夏休み限定ドローンフードデリバリー
~連携“絆”特区への離陸~

上級研究員 水上 義宣

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長崎県の五島列島でドローン配送事業を展開する「そらいいな」は、2024年7月22日から2024年8月16日までの間、ドローンによるフードデリバリーを福江島の高崎ビーチで提供1する。五島列島では2022年からドローンによる医薬品や日用品の定期配送が行われているが、今回は夏休み期間中に限り、海の家へのフードデリバリーも実施する

長崎県は福島県とともに、2024年6月21日にドローンによる配送の早期実装を目的とする国家戦略特区「新技術実装連携“絆”特区」に指定2されている。夏休みにフードデリバリーを実施することでドローン配送への理解が深まることが期待される。

五島列島には多くの有人島が存在し、二次離島3もある。こうした島では日用品の買い出しはもちろん、薬局や診療所、病院での医薬品の補充も容易ではない。そこで「そらいいな」は、福江島を拠点として各島へのドローンによる医薬品等の配送を実施しており、ドローン航路は既に五島列島一円に広がっている≪図表1≫。

≪図表1≫そらいいなドローンの定期飛行経路   (出典)そらいいな資料

五島列島の広い地域への配送を可能にしているのが、米国ziplineの固定翼ドローンである。ドローンというと一般にマルチコプターが想像されるが、固定翼は飛行速度、航続距離に優れ、天候の影響を受けにくいのが特徴である≪図表2≫。一方でマルチコプターと異なり、その場でのホバリングによる一時停止ができないため、待機時は周回飛行する必要がある。また高速で飛行することから、急な回避動作も難しい。

≪図表2≫マルチコプターと固定翼の比較

ドローンは、第三者上空の飛行7が制限されている。ドローン配送で道路等第三者が通る可能性がある場所を飛行する方法は、現在3つある。一つ目は、第三者に対してドローンが来ることを注意喚起する看板や補助者を配置して、ドローン飛行中は第三者が立入らないようにするレベル3飛行である。二つ目は、機体のカメラによって第三者が居る場合は一時停止等を行い、第三者上空の飛行をしないようにするレベル3.5飛行である。そして三つ目が、第一種機体認証を取得した機体を一等無人航空機操縦士が飛行させることで、安全を担保し第三者上空を飛行するレベル4飛行である。

一時停止や急な回避ができない固定翼では、レベル3.5飛行は難しい。五島列島では、飛行経路をほぼ海上に限定しレベル3で飛行している。長崎県は、医薬品等が届けられる場所が海岸付近に限られるため、集落から不便なことを課題として挙げている8

固定翼で道路等の上空を飛ぶ現実的な方法は、レベル4飛行と考えられる。そのためには、第一種機体認証、特にメーカーによる第一種型式認証9が必要だ。しかし、安全性を証明する型式認証の取得には相応の手間と費用がかかる。また、ドローンには国際的な認証制度がないため、日本での認証は日本でしか通用しない。このため、2024年7月22日現在第一種型式認証を取得している機体は、日本メーカーのマルチコプター1機種10にとどまっている。なお、Ziplineは米国でもドローン配送を実施11しているが、その審査結果を日本で使うことはできない。

そこで長崎県は、国家戦略特区指定にあたって、海外で承認を受けた項目は機体認証の審査を免除するよう求めた12。国は、「米国等の当局に提出した書類など英語で作成された書類を、和訳することなく、型式認証の審査を行う国土交通省に対して提出可能であることを2024年度早期に明確化する」13とした。

また、今回の特区は、福島県と共同で指定されていることも特徴である。福島県にはドローン等の試験が行える福島ロボットテストフィールドがあり、日本向けに追加の試験が必要な項目について飛行試験等が可能である。

夏休みのフードデリバリーは、ビーチへの配送にとどまるが、固定翼ドローンも第一種機体認証を取得し、将来的には集落まで飛行することが期待される。また、第三者上空の飛行が可能になれば五島列島のような離島だけでなく、山間部等での活用も期待できるだろう。長崎県五島列島の取組みが、連携“絆”特区を弾みに全国に拡大するか注目される。

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