企画・公共政策

2030年の訪日外客数6,000万人は実現可能か

上級研究員 小池 理人

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 7月19日に行われた第24回観光立国推進閣僚会議において、岸田首相から2030年の訪日客数は6000万人、旅行消費額も15兆円の目標水準も視野に入る状況との発言があった。この目標は達成可能なのであろうか。結論から言うと、筆者は6,000万人の達成はかなり難しいと考えている。
 まず、足もとの訪日外客数の状況を確認すると、1-6月までの人数は1,778万人となっている。コロナ前の2019年対比での1-6月期の伸び率は+6.9%となっており、今後も同程度の伸びで推移するのであれば、2024年は3,408万人となる計算になる。2024年6月時点で中国からの訪日数が同▲25.0%と回復途上であることを考慮すると、2024年は3,500万人程度での着地が期待できる。ただ、2030年までに6000万人を達成するためには、ここから6年間、訪日外客数を毎年9.4%増加させ続けることが必要になり、供給体制の改善と需要の分散化を大きく進めることが不可欠となる。
 供給体制として大きな課題となるのは、人手不足だ。日本の生産年齢人口は1995年をピークに減少しており、人手不足は深刻化している(図表1)。コロナ禍で人員を削減した観光産業においては、就業者数をまずはコロナ前へ回復させる必要があり、他産業と比べても厳しい状況となっている(図表2)。日本経済全体において生産年齢人口が減少する中で、人手をコロナ前に戻し、更には拡充していくことは容易ではなく、供給力を早期に改善することは難しい。

需要の分散化も課題である。宿泊旅行統計で、取得できる最新のデータである2024年4月の外国人延べ宿泊者数をみると、三大都市圏が2019年同月比で+40.6%であるのに対し、地方部は同+5.9%と宿泊需要の格差が大きいことが示されている。今回の観光立国推進閣僚会議では35の全国立公園に高級リゾートホテルを誘致し、地域の魅力向上を進める方針が示されている。宿泊施設を充実させることは望ましい施策であると考えられるが、それだけでは十分でない。地方に観光客を集め、お金を落としてもらうためには、観光コンテンツの充実も不可欠であり、こうした取り組みにはどうしても時間がかかる。
 急増する需要に対する供給力の拡充と需要の分散の遅れは、オーバーツーリズムを深刻化させ、観光客の満足度の低下、ひいては将来の需要喪失に繋がる恐れがある。長い目で見た日本の観光産業を活性化させるためには、過度に人数を追うだけではなく、サービスの質的向上にも目配りする必要があるだろう。需要に見合った単価引き上げを行い、確保した資金を人材確保のための賃上げや設備投資に回すことが、観光産業を強くすることに繋がるものと考えられる。

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