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地方発スタートアップの可能性を探る~新潟県南魚沼市とスタートアップ支援企業「Socialups」のコラボから~

上級研究員 福嶋 一太

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先日政府より発表された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針2024)」の中で、社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現にむけた政策の一つとして「スタートアップのネットワーク形成や海外との連結性向上による社会課題への対応」が掲げられた。スタートアップ支援に関する記載は、骨太の方針2022で重点投資分野として記載されて以来3年連続となる。
 また、骨太の方針2024では、「地方創生及び地域における社会課題への対応」の中で、デジタル田園都市国家構想の更なる推進も言及されており、デジタルの力を活用した地方の社会課題解決に向け、スタートアップの活用等により地方に仕事を作ることが施策として掲げられている。
 このように、国はスタートアップを経済成長のドライバーととらえ、将来の所得や財政を支える新たな担い手としてスタートアップ支援を推進している。経済産業省によれば、国内スタートアップの資金調達額は直近10年間で約10倍(2013年:877億円→2023年:約8,500億円)、新規公開会社数も直近9年間で約2倍(2013年:54社→2023年:96社)に成長しており、スタートアップ支援については一定の効果が表れている。

しかし、スタートアップが全国で誕生する流れにはなっていない。その理由として「地方では事業成長のための資金調達手法が限られていること」、「専門人材が東京を中心とした大都市に集中していること」、「事業化に向けた取引先、経営者仲間等ネットワークが大都市に集中していること」の3点があげられる。本稿ではこれらの課題と向き合う、人口約53,000人(2024年6月末現在)の新潟県南魚沼市と、同市にオフィスを置き、南魚沼市と協力してスタートアップ支援を行うSocialupsの取組を紹介する。Socialupsは元自治体職員や起業家出身者から構成される民間企業であり、行政と連携したスタートアップ支援の事業を展開している。地方で自治体と民間企業が連携したスタートアップ支援例はまだ少ないことから、両者の取組を紹介したい。

南魚沼市は2020年度から「イノベーション推進事業」として起業家の育成に取り組んでいる。当事業の一つに、同市出身で株式会社アルプス技研の創業者からの寄付を活用した「南魚沼市チャレンジ支援補助金」という制度がある。具体的には、同市の個人や既存の会社を対象に、構想段階の事業や新事業を進めるにあたっての国内外の調査研究やニーズ検証等に係る経費を上限100万円まで同市が補助するものだ。
 この補助金制度に採択された事業者へ、事業構想を確立していくための戦略立案支援を行うのがSocialupsである。さらに同社は、創業時の資金調達だけでなく、事業拡大期に巨額の資金を調達する際の事業資金の出し手となりうるVC(ベンチャーキャピタル)等の資金提供先と事業者のマッチングも担い、創業から事業拡大まで伴走支援を行う点に特徴がある。
 この他、同社ではスタートアップを目指している人を対象とした「スタートアップアクセラレーション南魚沼」の運営も行っている。本イベントでは、実際に起業した際のイメージを参加者が持てるよう工夫されている。具体的には、新潟県に所縁のある起業家を招き、参加者と交流を深めるような場が用意されるほか、南魚沼市チャレンジ支援補助金の採択事業者との間で現在の取組状況の共有も行われる。


一方、南魚沼市が行う補助金以外のスタートアップ支援の一つが、事業創業者等が南魚沼市で交流を深めることができるコワーキングスペース「MUSUBI-BA」の開設である。MUSUBI-BAでは、上記「スタートアップアクセラレーション南魚沼」の開催の他、創業支援・資金調達・採用に関するセミナー開催、南魚沼市内にあるスタートアップ等によるビジネスピッチ(短時間の事業プレゼン)を通じたビジネスマッチングも行われており、スタートアップ支援の拠点になっている。

 これらの南魚沼市とSocialupsの取組から、地方におけるスタートアップ支援に欠かせないポイントを2つあげることができる。
 1つ目が、Socialupsを通じて戦略支援にとどまらず、資金調達をサポートする体制があることだ。総じて、地方は東京に比べてVCといった資金の出し手との距離が遠く、大きな資金調達が難しい。そのため、地域発ベンチャーは成長期になると資金調達の関係で東京のような大都市に移転することが少なくない。地方で資金調達を行うことが可能になれば、地方発のスタートアップがその地方で大きく発展し、地域経済の担い手となるケースも増えるのではないだろうか。
 2つ目は、スタートアップを志す人が相談でき、交流を深めることができる環境整備である。起業する意識はあるが、起業できていない理由として、仕入・流通・宣伝に関するノウハウの不足や起業に関する相談相手の不足が挙げられるが、交流の場がこれらの解決に役立つとされる。さらに、Socialupsを通じたスタートアップへの伴走支援といった、重層的で手厚い支援体制を用意することで、新たな起業家をその地方に呼び込む好循環が期待されるだろう。

地方におけるスタートアップ支援は、拙著「多様な切り口で都市を繋ぐことで地方都市はどう変わるか?~元つくば市副市長毛塚幹人氏に聞く宇都宮市の取組み~」(2023年)で紹介した宇都宮市のように民間主導のものや、今回とりあげた南魚沼市とSocialupsとコラボした事例をはじめ、いくつか生まれつつあるが、多くは走り出したばかりである。これらの事例の今後に着目していきたい。

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