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宿泊税の導入は自治体による観光振興の切り札となるのか~熱海市で宿泊税の導入を決定(2024年6月14日)~

主任研究員 福嶋 一太

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静岡県熱海市は、宿泊税導入に係る総務大臣の同意を得たことを受け、2025年4月1日より宿泊税を導入することを2024年6月14日に決定した。この宿泊税は熱海市内の宿泊施設(民泊含む)の宿泊者から、1人1泊あたり定額200円を徴収するもので、12歳未満の子供や修学旅行生等は非課税とされる。熱海市では、この宿泊税による税収を初年度約6億円見込んでおり、徴収を行う宿泊施設のシステム改修への補助も併せて実施する予定である。また、宿泊税の金額等については、5年に一度を目途に見直しを検討することとしている。
 さらに熱海市では、宿泊税を財源としたイベントの強化やマーケティングを担う「熱海型DMO(観光地域づくり法人)」の設立を進めている。これまで地域における観光推進は、観光協会等と連携し、行政が主に担っていたが、人事異動による担当者変更や専門性の不足といった課題を抱えていた。観光振興を専門組織である熱海型DMOが担うことで、Wi-fiやGPSデータを活用した導線分析・消費額調査といったマーケティング活動や新たな誘客イベントの開発といったコンテンツ開発を通じ、宿泊客の増加や観光消費拡大に資する事業を行う予定だ。また、将来的には高付加価値体験型コンテンツの開発や交通データや携帯会社のデータと連携したマーケティング、ランドマークコンテンツの開発等も構想されており、熱海型DMOの設立により、宿泊税をより効果的に活用することが期待される。

現在、この宿泊税(法定外目的税)の導入議論が全国で活発化している。既に宿泊税が導入されている9地域(東京都、大阪府、福岡県、京都市、金沢市、倶知安町、福岡市、北九州市、長崎市)に加え、約30地域で導入が検討されている。
 宿泊税導入済み9地域の税収は約103億円(2022年度、2023年導入の長崎市を除く)となっており、観光庁の予算(2024年度503億円)と比べても宿泊税の存在感は増すばかりだ。また、宿泊税を用いた観光振興策にも注目が集まっている先日紹介した京都市の「観光特急バス」も宿泊税を財源としており、宿泊税はオーバーツーリズム対策にも一定の効果を発揮することも期待されている。

このほか、宿泊税の導入検討が進む背景として税を巡る地方自治体特有の事情がある。まず、観光振興の受益者が必ずしも住民といえないため、住民が広く薄く負担する一般財源からの観光振興費の拠出が難しいことがあげられる。次に、観光振興の成功で地方自治体の税収が増加しても、国から交付される地方交付税(普通交付税)が減少する仕組みとなっていることも一因である。地方自治体の税収合計は観光振興の成否にあまり影響を受けないため、地方自治体にとっても一般財源から観光推進の拠出をするモチベーションが上がりにくいからだ。一方、法定外目的税である宿泊税は地方交付税に影響が及ばないため、観光振興の新たな財源として注目されている。

しかし、宿泊税導入に当たって課題も少なくない。特に、使途の明確化や金額の妥当性について十分検討していく必要がある。また、協力金、ふるさと納税、クラウドファンディングといった他手法との比較検討や、宿泊施設や住民への丁寧な制度説明、特に宿泊税の導入による観光客離れ等の悪影響についての議論も肝要だ。

前述の熱海市でも、観光に宿泊税の徴収を行う宿泊施設への制度説明を、市長、副市長、関係部署の幹部が出席し、全7回実施している。また、説明会では宿泊税の使途についてアイデア出しを行うワークショップを企画する等、参加者の合意形成を得るための工夫も行っている。
 また、宿泊税の使用目的は熱海市宿泊税条例第1条に「観光振興を図る施策に要する費用に充てる」旨を記しており、その使用目的を制限している。また、熱海型DMOによる観光振興は熱海市や熱海市議会によるチェックが行われる仕組みになっている。
 このように、熱海市では導入に向けた丁寧な合意形成プロセスや、導入後を見据えた熱海型DMOの設立を並行して進めることで、宿泊税における利用目的の明確化、効果的な使われ方、使われ方のチェックに工夫を見て取ることができる。

今後の宿泊税の全国的拡大にはいくつかの留意点がある。まず、福岡県と福岡市のように、複数の地方自治体で調整が必要なケースが想定される。次に、国は地方自治体が導入検討しやすいよう先行事例の導入に至るプロセスやデータなど、一定の検討材料を例示する必要があろう。導入の影響、税額の妥当性等といった、導入時に検討が必要な共通項目は、先行導入事例を参考にされることも多いからだ。最後に、導入にあたっては拙速を避け、地域と丁寧に対話することが不可欠であろう。

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