シティ・モビリティ

【Vol.82】2.迫る自動運転レベル4時代の民事責任 ~EUのAI規制案に見る日本の残課題への対処法 Ver.2〜

主任研究員 新添 麻衣

※本稿は2022年12月にオンライン掲載にて発行したレポートの更新版です。

Ⅰ.はじめに

自動運転レベル4の実現が現実味を帯び、システムが運転を担う車を社会へ受け入れる体制整備が主要国で進んでいる。本稿では、自動運転車の開発状況や規制の整備状況を概観した上で、その社会受容性を左右する民事責任の問題に着目した。

Ⅱ.自動運転の実用化に向けた動向

レベル3、レベル4それぞれの開発状況や規制の整備状況を概観する。運転者を必要とするレベル3は、その走行環境も当面は高速道路となることが見込まれ、従前の自動車の安全運転支援の延長線で開発と規制整備が進む。一方、レベル4の主眼は移動・物流サービスの商用車である。一般道や市街地での走行を含む幅広いユースケースが想定され、無人運転という新種の運行形態を容認するための法整備に各国が独自に取り組んでいる。各国で共通するのは、レベル4においては運転免許を保有する運転者は不要になるが、代わりに自然人が遠隔監視で運行状況を見守っているという点で、この遠隔監視を担う人物(日本では特定自動運行主任者)の訓練も含め、自動運転サービスを実施する事業者(日本では特定自動運行実施者)の適格性を担保するために何らかの届出や認可制度が敷かれている点も共通項である。日本では、2023年4月施行の改正道交法により、都道府県公安委員会への認可制となる。

Ⅲ.自動運転車を巡る民事責任に関する整理と残課題

日本では、レベル3、レベル4の導入初期である2025年頃までは、現行の自賠責・自動車保険の枠組みが自動運転車にも適用できると整理されている。レベル3のマイカーユーザーや、レベル4の移動・物流サービスを生業とする事業者に対しても、運行供用者責任を問うことが可能と考えられるためである。これにより、一次的な被害者救済は迅速に果たされるが、その後の保険会社による自動車メーカー等への代位求償の実務の構築は残課題となっている。高度なテクノロジーが搭載された自動運転車の事故の原因究明は開発者以外には難易度が高く、被害者側の(含む保険会社)欠陥の立証は難易度の高いものとなる。また、製造物責任法自体が自動運転車の特性に追いついていない側面もある。例えば、現行法が認める欠陥は製品の引き渡し時から存在したものに限られるため、基幹ソフトウェアのアップデートでバグが生じて事故が発生した場合も「欠陥」とはならない。

Ⅳ.EUにおける民事責任制度の見直し

2022年9月28日に欧州委員会が公表した製造物責任指令とAI民事責任指令の法案は、現代のデジタル製品の特性を踏まえた内容で、Ⅲ.の日本の残課題を解消する1つの策として今後のEU理事会、欧州議会での議論が注目される。EU市民の保護に重きを置いた内容となっており、主な改正点は次のとおり:
◆「製品」の範囲拡大:現行法では有体物に限定されているが、無体物も製品の定義に含める。これにより、製造者の範囲も拡大し、AIやソフトウェアの開発ベンダーであるIT企業やスタートアップなども製造物責任を問われるようになる。
◆「損害」の範囲拡大:現行法の人身傷害、財物損壊の物理損害に加え、新たにデータの紛失・破損等が追加される。
◆アップデートへの対応:AIの学習やソフトウェアの更新を想定し、製造者は市場投入から原則10年、製造物責任を負う。
◆「欠陥」の立証と因果関係の推定:“ハイリスクAI”の使用に起因する事故の場合には、裁判所が製造者に証拠の開示と保全を命ずることができる。また、提出された証拠と事故とのあいだの因果関係を、「推定」によって認めることができる。

Ⅴ.おわりに

AI・デジタルという広い視点から製造物責任法を抜本的に見直し、現代化したEUの法案は、自動運転車と民事責任の残課題の議論にも一石を投じるもので、EUでビジネスを展開する外資企業にも当然に影響が及ぶため、他地域での民事責任の在り方の議論にも影響を及ぼすことは必至である。当面のあいだは現行制度で対応可能としても、レベル4の自動運転サービスへの期待と日本政府の普及目標を踏まえると、将来に向けた責任制度の在り方について議論を開始すべき時ではないだろうか。

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