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【Vol.77】4.デジタル課税~議論の本質から紐解く~

フェロー 隅山 正敏

I.はじめに

デジタル企業に対する課税(デジタル課税)は、検討の起点となった「租税回避」に目を奪われ、本来の論点である「どの国が課税すべきか」に日が当たっていない。本稿では「デジタル企業の所得(利益)のどの部分にどの国が課税すべきか」というデジタル課税の本質的な問題を紐解く。

II.デジタル企業は現地で租税を負担すべきか

デジタル企業は「現地に拠点を置くことなく」大規模に海外事業を展開するが、進出先の国での租税負担(所得課税)は、事業規模に比して僅かなものに止まる。デジタル企業の所得(利益)は、自社開発のビジネスモデルからもたらされる部分が大きいであろうが、消費者が「利益の上乗せ」に貢献するケースは存在する。その場合、消費者所在国が「上乗せされた利益」に対して課税することが「公正な租税負担」となる。また、同じビジネスモデルを採用する国内企業との競争条件の公平性を保つこともできる。ただし、消費者は殆どのケースでデジタル企業に何かを支払うことをしておらず、「消費者」と「企業所得(利益)」を橋渡しする「ロジック」が必要となる。

III.デジタル課税を阻む「ネック」は何か

現在の国際課税ルールは、消費者所在国が「自国に拠点(PE)を置いてない」外国企業に法人税を課すことを認めておらず、「PEあり」と認定されて初めて「そのPEに関連する所得(PE帰属所得)」に課税することになる。消費者所在国がデジタル企業に課税するためには、①企業が自国で事業を遂行していると言い得るロジック(PEに代わる概念:ネクサス)、②企業の所得(利益)が自国で生じていると言い得るロジック(PE帰属所得に代わる概念)の2つが必要であり、また、実務的には「全世界所得」を起点として「自国に帰すべき所得」を特定する作業が必要になる。更に、租税回避問題の最後の抜け穴(低課税国への対応)を塞いで実際の税収に結び付ける必要もある。

IV.デジタル課税の検討はどこまで進んでいるか

欧州主要国が強力に後押しして、140カ国の参加する国際協議と、EU加盟国の参加するEU協議が同時並行的に進んでいる。国際協議では、自国企業狙い撃ちを警戒する米国が欧州主要国と対峙しつつ「2020年末」期限の協議が進んでいる。EU協議では、低課税を武器に企業誘致を進めてきた国が主要国と対峙する中で、国際協議をリードするための意見調整が進められている。国際協議の進展に不満を持つ国が独自のデジタル課税を導入するという波乱要因も加わって、行く末が見え難くなっているが、殆どの参加国の税収増に繋がるだけに年内合意も不可能ではない。

V.おわりに

ポイントは、①デジタル課税では消費者がデジタル企業に対価を支払っていないにも拘らず消費者所在国が課税するという「捩れの関係」を橋渡しする必要がある、②従来の「富が形成されて利益が生まれる」という説明に代えて「価値が形成されて利益が生まれる」という説明が「橋渡し」となる、③通常所得・本国由来所得・市場国由来所得という3分法における市場国由来所得が課税対象となる、④市場国由来所得は大きいものでなく期限内合意は不可能ではないという4点である。

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