企画・公共政策

「コンビニ越しに見える富士山問題」について考える
夏山登山の新予約システム開始(7月1日~9月10日まで)

副主任研究員 宮本 万理子

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 コロナ禍が収束に向かう中、インバウンドの回復に加え、SNSを通じた情報発信の影響によって、観光客が局所的に急増する事例が報道されるようになった。このような社会現象は、観光客が地元住民の生活、自然環境、景観等へ負の影響を与えるオーバーツーリズムを引き起こしている。山梨県河口湖では、「コンビニ店舗の上に富士山が乗ったような写真が撮影できる」とSNSで話題になったことをきっかけに、多くの外国人観光客が訪れ、迷惑行為が後を絶たない。この「コンビニ越しに見える富士山問題」はオーバーツーリズムの典型と言えるだろう。

 

 オーバーツーリズムによる自然環境や景観等への負の影響が問題視され、持続可能なサステナブル・ツーリズムという考え方が注目を集めている。サステナブル・ツーリズムは、「環境的に適正である」「社会文化的に好ましい」「経済的に成長できる」という3つの基本要素全てを満たす必要がある。つまり、環境負荷の低減だけでなく、伝統や文化の尊重、産業としての発展も持続可能性の重要な条件となる。

 

 東洋大学、武正憲教授の研究成果では、富士山のような自然地では、混雑することが安全管理面で負担になる一方で、観光客が多いとにぎわいを創出し、観光地の評価が上向くといったギャップに注目している[1]。また、式根島の海水浴場では、サンゴや熱帯魚など海中の観光資源の質がより大事で、混雑していても観光客の満足感を下げない可能性が示されている[2]。サステナブル・ツーリズムは、質の高い観光資源を適切な集客によって対処することが重要である。

 

 サステナブル・ツーリズムは、「経済的に成長できる」ための高付加価値観光の視点も重要だ。山梨県は、富士山の登山者数の上限を1日あたり4,000人とし、1人当たり2,000円の通行料の支払いを義務化する方針だ。今年の夏山シーズンが始まる7月1日から9月10日まで新予約システム[3]の運用が開始され、ゲートの設置費、登山道やゲート付近の指導員の配置、そして広報活動といった必要経費に充てられる予定となっている。登山者数に制限をかけて、高付加価値観光を受益者負担で賄う仕組みづくりである。富士山では、これまで保全協力金1,000円を任意で徴収する仕組みを導入し、安全対策、環境保全、人件費等を補ってきたが[4]、今回の通行料支払いの義務化から、登山者数を抑え、高付加価値な観光を提供する県の方針転換が伺える。今回の通行料支払いの義務化は、登山者の規制というイメージが濃いが、同仕組みを街全体に広げることも今後検討する余地があるだろう。

 

 海外に目を向けると、オーバーツーリズムが社会問題となるヴェネチアでの取組みが参考になる。世界文化遺産に登録される地区の観光客数を抑えるため、街全体に入場料徴収制度を導入する世界で初の試みだ。旧市街地を訪れる日帰り観光客に、1日5ユーロ(830円程度)徴収する。観光客がオンライン・プラットフォームを使って料金を支払うと、QRコードかバウチャーが発行される。これを市内の特定のポイントに入る際に提示する仕組みである。同取り組みは、市がオーバーツーリズム対策計画を策定するため、観光客の人流を正確に収集し、ビッグデータを使って分析することを目的としている。4月25日から7月半ばまで実証実験が行われており、観光による経済成長と、自然・文化遺産の保全との両立を目指した戦略的取組みとして、世界的にも注目が集まる。

 

情報提供者 
      武 正憲
      東洋大学 国際観光学部 国際観光学科 教授/博士(環境学)
      専門分野:観光学/自然共生システム/ランドスケープ科学
 
      浜 泰一
      東洋大学 国際観光学部 国際観光学科 非常勤講師/博士(環境学)
      専門分野:環境教育/ランドスケープ科学

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