シティ・モビリティ

無人航空機が支える災害時や山間部の通信
~HAPSへの期待~

主任研究員 水上 義宣

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2024年6月3日、NTTドコモ、Space CompassがAALTO、エアバスと資本業務提携し、日本において2026年の高高度プラットフォーム(High Altitude Platform Station、以下「HAPS」)サービス提供をめざすと発表した1。HAPSとは成層圏に無人航空機を飛行させ、携帯電話の基地局として機能させるもので、「空飛ぶ基地局」とも呼ばれる。こうした地上のインフラに頼らない通信サービスは非地上系ネットワーク(Non-Terrestrial Network、以下「NTN」)と位置付けられ《図表1》、地上設備に依存しないため広範囲をカバーでき災害等による設備の破壊の恐れが少ないのが特徴である。

NTNとしては他に衛星通信があり、特にSpaceXのStarlinkが有名である。現在Starlinkはスマートフォンと直接通信することはできず、専用機器を介する必要があるが、KDDIはStarlinkとスマートフォンが直接通信できるサービスを2024年内を目途に提供すると発表している2

こうしたNTNの整備による通信範囲の拡大が急がれる背景の一つにIoTやドローン活用の進展がある。従来の携帯電話網は人が住んでいる地域での通信確保を目的とした、いわゆる人口カバー率を目標に整備が進められてきた。このため、山間部や海上等の定住人口が極めて少ない場所では通信が困難な状況となっている。しかし、近年ではこうした場所でも砂防ダムの監視や送電線の点検、物流ドローンの飛行等、通信が必要なIoT機器やドローン等の活用が望まれている。

また、地上設備に依存しないため災害に強いこともNTNの特徴である。災害時、従来の通信網は地上設備が被害を受け、通信が途絶することがある。例えば、2024年1月1日の能登半島地震では基地局への道路が被害を受けたため、非常用電源設備への燃料供給が困難になり1月3日頃までに多くの携帯電話基地局が停波した。さらにテレビ、ラジオの中継局も同様に停波したため、情報伝達が困難な地域が発生した。その後、Starlinkや従来の静止衛星通信等を活用した基地局等を利用し携帯電話各社は仮復旧を進めたが、土砂崩れ等で立入りが困難な地域では復旧が遅れる等地上設備による復旧には課題も残した。HAPSやStarlinkと直接通信できるスマートフォン等のNTNの普及はこうした災害時の復旧をより迅速にすることが期待される。

このような通信網の整備は、安否確認等の直接的な通信だけでなく、ドローン等の活用にも有効である。能登半島地震では日本UAV産業振興協議会(以下「JUIDA」)が中心となり、民間ドローンが土砂崩れの被害把握や二次被害の監視、孤立地域への救援物資の搬送等に活用された。一方でJUIDAの嶋本氏は「「電波が弱くてドローンを飛ばせない」といった事態も発生しました。大きな災害が起こると、LTEなどの通信網が脆弱になりやすい。」3と話す等、特に操縦者から見えない範囲まで飛行させる場合には機体と操縦者が通信することを前提としているドローンの活用においては通信確保が課題となった。

Space Compassは、HAPSについてStarlink等の低軌道衛星通信と比べると低遅延、高スループットで消費電力が低く、地上から見たときの基地局の位置も静止に近いため、スマートフォン等からの通信がよりスムーズであるとしている4。こうした特徴はドローンに搭載できる小型軽量の通信機を移動しながら通信させる必要があり、飛行映像や操縦指示をできるだけリアルタイムに送受信する必要があるドローンにおいては有用であろう。また、あらかじめ打ち上げておく必要がある衛星と比べれば災害時に基地局を増強することも簡単であると考えられる。

Starlink等の衛星通信に続いて、HAPSという新しいNTNの選択肢ができることは、ドローンやIoTといった無人技術を山間部等や災害時に活用する基盤の強化につながると期待される。

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