小学生の子を持つ親への両立支援
~独自アンケート調査からの考察~
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1.はじめに
育児・介護休業法の改正等により、育児期を通じて柔軟な働き方が可能となるよう、子の年齢に応じた両立支援が拡充される。政府は育児・介護休業法において、育児を行う労働者の仕事と育児の両立が図られることを目的として、労働者が育児を行いやすくするための休業制度を設けるとともに、所定労働時間等に関し事業主が講ずるべき措置を定めている。これまでは、子の看護休暇、時間外労働の制限、深夜残業の制限等いずれの制度も子が就学前までの措置だったが、今般の法改正で、子の看護休暇については、小学校3年生修了時まで、子の感染症に伴う学級閉鎖等や子の行事参加(子の入園式、卒園式及び入学式を対象)にも利用できるよう、制度を見直す。
子が小学校に就学して以降の両立支援は、これまでもっぱら事業主の自主的な取組に委ねられてきたが、事業主の中には、法定の範囲を超えて両立支援制度を小学校に就学している子にまで対象を広げているところもある。当社は、2024年1月に、小学生の子を持つ親を対象に、勤務先の企業が導入している両立支援制度とその利用状況等につきアンケートを実施した。本稿ではこのアンケート調査を基に、今般の法改正の意義と課題、事業主にいっそうの取組が期待される課題について考察したい。
2.職場における両立支援制度
(1)両立支援制度の導入・利用状況
アンケート調査において、小学生の子を持つ親に、職場で導入されている制度を尋ねたところ≪図表1≫、「子育てにかかる休暇制度(看護休暇)」が32.3%と最も高い。次いで、「短時間勤務制度、フレックスタイム制」が28.5%、「テレワーク」が20.1%と続く。導入されていると回答した制度の利用率に着目すると、「テレワーク」が78.4%と最も高く、次いで、「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」が56.3%と続く。
コロナ禍で普及したテレワークの他、「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」の利用率が高く、共働き、片働き、ひとり親の家庭分類別の回答結果を見ると、特に、共働き家庭やひとり親家庭の親にとって、「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」が有意義な制度であることが見てとれる。
(2)両立支援制度の評価
利用したことがある両立支援制度について、その有用性を尋ねたところ、いずれの制度も「とても有用に感じる」「まあまあ有用に感じる」の合計は90~95%程度となっている。「とても有用に感じる」の割合は、「子育てにかかる休暇制度(看護休暇)」で67.9%、「短時間勤務制度、フレックスタイム制」で62.1%、「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」で60.3%となっている≪図表2≫。
(3)休暇制度の評価(子の学年別)
両立支援制度のうち、「子育てにかかる休暇制度(看護休暇)」と「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」について、子の学年別に「とても有用に感じる」「まあまあ有用に感じる」の合計をみると、どちらの制度についても、小学校高学年であっても小学校低学年の場合と同程度に有用性を評価している≪図表3、図表4≫。政府は、「子の看護休暇」の見直しに当たり、取得事由を拡大するとともに、子の対象年齢を小学校3年生修了時までに延長するとしているが、子が小学校高学年でも親の有用性の評価は変わらない≪図表3≫。
3.子育ての苦労と雇用主への期待
(1)子育ての苦労
子育てに関し苦労していることを尋ねたところでは、「学校活動への参加(保護者会、授業参観、PTA等)」が30.0%と最も高く、次いで「夏休み等長期休暇の子どもの居場所」「有事の際(子どもが病気になった時、学級閉鎖等)の子どもの預け先」が続く。共働き、片働き、ひとり親の家庭分類別の回答結果を見ると、特に、共働き家庭やひとり親家庭で、子どもが病気の場合や、学校活動への親の参加に苦労している状況が確認できる≪図表5≫。
(2)雇用主への期待
こうした日常的な苦労を背景に、仕事と子育てを両立しやすくするために雇用主に期待することを尋ねたところ、全体では、「子育てにかかる休暇制度の導入・拡充(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」が39.4%と最も高く、次いで、「子育てにかかる休暇制度の導入・拡充(看護休暇)」が37.9%と続く。雇用主に対しては、休暇制度の導入・拡充についての期待が高い≪図表6≫。
4.事業主の取組について~多様な選択肢と職場の理解が重要~
今回の法改正を受け、子の看護休暇制度について、子の対象年齢が小学校3年生修了時までに延長され、事業主はこの措置への対応が必要となることは言うまでもないが、小学生の子を持つ労働者の両立支援については、引き続き、事業主の自主的な取組に委ねられる部分が大きい。
一部の企業では既に法定を上回る対応が進んでいる。例えば、子の看護休暇について、子どもが4人以上いる従業員が多い中小企業で、既に、高校3年生まで行事参加のために有給休暇を取得できるよう、法定を上回る対応をしている例もある。このように、従業員の置かれた状況を踏まえ、ライフステージに応じて多様な働き方ができるよう両立支援制度を整える企業がある一方、両立支援の導入・拡充に向けた対応が遅れる企業は、労働者から選ばれず、人材不足に直面するリスクを抱えることになる。事業主には、優秀な人材の確保・定着の観点から、業務内容や職場内の公平感・納得感等を勘案しつつ、仕事と子育ての両立支援に関して、可能な限り従業員の選択肢を広げる工夫が求められる。
また、制度の導入・拡充に当たって、職場の理解の重要性についても指摘しておきたい。従業員の立場からは、現在の職場が、仕事と子育ての両立に関して「理解があると感じない」と、子育ての苦労を強く感じる傾向が見て取れる≪図表7≫。
さらに、仕事と子育ての両立に関する職場の理解度合いを、職場の制度を利用したことがある人別について見ると、いずれかの制度を利用したことがある人では、「とても理解があると感じる(32.7%)」「まあまあ理解があると感じる(54.4%)」の合計は87%となっている。中でも、「子育てにかかる休暇制度(看護休暇)」「子育てにかかる休暇制度(学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」「子連れ出勤、事業所内保育施設」を利用したことがある人では、「とても理解があると感じる」「まあまあ理解があると感じる」の合計が90%以上と特に高くなっている。様々な両立支援制度の中でも、特に「子育てにかかる休暇制度」「子連れ出勤、事業所内保育施設」を利用できる環境と、従業員の「職場が両立への理解がある」と感じていることとの間には関係がある点が示唆されている≪図表8≫。
事業者は、制度を整備するだけでなく制度を利用しやすい職場環境を実現し、従業員が職場の理解があると感じられる状況をつくることも重要だ。
5.最後に~求められる不断の制度見直し~
アンケート結果で見てきた通り、両立支援制度の利用状況、実際の苦労、事業主への期待等を見ても、今般の「子の看護休暇の見直し」は小学生の子を持つ労働者のニーズに見合う措置であると評価できる。しかし、今般の措置は、子の対象年齢を小学校3年生修了時までとしている点に課題がある。前述の通り「子育てにかかる休暇制度(看護休暇、学校の行事参加、学級閉鎖を対象とする休暇制度など)」の有用性の評価は、子が小学校高学年でも同様である。政府は、子が診療を受けた日数等を勘案して対象年齢を定めたとしているが、厚生労働省において労働政策審議会に先立って開催された「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」でも、「小学校高学年であっても子を単独で療養させることはできないことから、対象年齢を卒業までに引き上げるべき」との意見もあった。
人手不足への対応はもとより、育児と仕事を両立する労働者が退職せず済むようにし、雇用の継続を図るという育児・介護休業法の法目的を達成するためにも、政府には、当該措置の対象年齢の拡大について検討の継続を求めたい。また、小学生の子を持つ親にとっては、夏休み等長期休暇の際の子どもの預け先の確保も重要である≪図表5≫。放課後児童クラブ等子どもを安心して預けることができる場所の整備を同時に進めることも期待したい。
未来を支える子どもの存在があってこそ、活気や希望のある社会が形成される。本稿が、育児と仕事を両立しやすい温かい職場環境づくりを目指す事業者やそれを後押しする政府にとって、今後の取組を進める際の一助となれば幸いである。
6.調査設計
(1)調査手法
インターネット調査(スクリーニング調査+本調査)
(2)調査対象者
小学生の子どもがいる全国の20歳~59歳男女、3247人
全国6地域および共働き・片働き(配偶者同居)・ひとり親(配偶者同居なし)の分類で割付
(3)調査時期
2024年1月22日(月)~2024年1月24日(水)
(4)調査実施会社
株式会社インテージリサーチ
PDF:1MB
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